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第四話 独り占めされた件

休日の翌日、お嬢様の部屋に行くと、お嬢様は俺を見て、本当に嬉しそうに笑った。

「私、キキロネの焼き菓子とても好きなのー。ありがとう、ウィルター。嬉しい、うふふ」


昨日、新しい方が良いと思ったから、こちらに戻ってから、仕事中のお嬢様付きの使用人仲間にお土産の菓子の箱を渡していたのだ。

ちなみに一度開封して中身をチェックしてからお嬢様に出されると聞いている。


「こちらこそ休日をいただき、ありがとうございました」

指導を受けている通りを口にしながら、俺もお嬢様にニコニコしていた。


「ウィルターは町で何を買ったの?」

とお嬢様が目を輝かせて聞いてくる。

俺は少し照れつつも答えた。

「同じお菓子にしました」

「え。そうなの」


お嬢様は少し驚いてから、また嬉しそうに顔を綻ばせた。

「じゃあ、ウィルターと私のお土産はお揃いね」

「!」


『お揃い』という言葉に俺は衝撃を受けた。ドキーンと心臓が鳴った。

バクバク言ってる。

俺が立ち尽くして真っ赤になって見つめているのを、他の使用人がどこか苦笑している。


恥ずかしさを覚えたがそれ以上にお嬢様が俺の返事をニコニコして待っている。

「あ、えと、そろいでも、大丈夫でした、か」

「えぇ。もちろんー」

お嬢様はニコニコして首を傾げて俺を見た。


立ち尽くす俺に、お嬢様は声をかけた。

「ねえねぇ、ウィルター、お話して」

「はなし、ですか」

「うん、そうよ? 町に行ったのでしょう? 話を聞きたいの」

「はい」


俺はぎこちなく動きながら示されるままに少し傍に寄り、お嬢様に町で見た事をとりとめなく話した。

何を見たか、何を食べたか、何が欲しくなったか、でも浮かれすぎていたと自覚あったので衝動買いは避けられたと思う、とかそんな話だ。


「いいなぁ、私も町に行きたいなぁ」

お嬢様は楽しそうに聞いてくれていたが、最後に詰まらなさそうに頬を膨らませて見せた。

「ねぇねぇ、ウィルター。いつか、こっそりお忍びで町に連れていってくれる?」

真剣に小声でそう言われた。

俺に断る選択肢はなかった。

「はい」

真剣に頷く。

パァと花が咲くようにお嬢様は笑い、両手を天に挙げて喜んだ。


「やったぁ。約束よ、ウィルター。絶対だからね」

「お嬢様?」

他の使用人が苦笑しつつも窘めて、俺を視線で叱るので、俺の返事は不味かったらしいと知った。


だけど良いじゃないか。


「ウィルター、絶対だからね」

慌てるように真剣に確認してこられたので、今度は無言でコクリと頷いた。


この馬鹿、と部屋を出てから、周囲に大変怒られた。


***


その晩、仕事が終わって自分の部屋に戻ろうとした俺に、お嬢様づきの仕事仲間、マリアとジュディアが俺に声をかけてきた。ちなみに、この2人がお菓子が良いとアドバイスをくれた。


「ウィルター、お菓子余ってたらで良いのだけど、少しだけお裾分けを貰えないかしら?」

とマリア。

「へ? なんでだよ」

「お嬢様のお裾分けが、なくってぇー」

きまり悪そうにジュディアがモゴモゴと言った。

俺は首を傾げた。


「え、お嬢様って案外とケチか? お裾分けあるっていうから、それ考えて大きいの買ったけど、俺」

「ちょ・・・! お嬢様をケチとは何よ」

「そ、そうよ!」


「なんだよ」

ムッと眉をしかめる。

なぜここで俺が怒られないといけない。


「お嬢様はケチじゃないの! あー、もう、ごめんなさい! ちょっと聞いてみただけ!」

「うん、もらえるつもりでいたから、その、えーと」 

「あきらめましょ」

「そうよね・・・」


どうもジュディアが食い意地が張っている。


「俺、昨日帰ってから、全部食っちゃってて。もう無いんだ」

というか、自分で買えば?

「まぁ、そうね」

とマリアも肩をすくめてジュリアを見やった。

ジュディアが切なそうだ。


「無いものは無い」

と言い切ってから、あまりにジュディアがしょんぼりとしているので僅かに気の毒になる。

ちなみに18歳で俺より随分と年上なのにそこまで菓子が楽しみだったのか。と思うと微妙でもあるが。


マリアがジュディアを慰めつつ、俺に詫びた。

「ごめんなさいね。あと、お嬢様はケチじゃないから、絶対に違うからね」

「・・・うん」

意外とお嬢様も食い意地が張っていたのかもしれない。


「違うからね、あんた今お嬢様に対して失礼な事思ったかもしれないけど絶対それ違うから。言っとくけど女性として可愛らしい理由だから」

「理由てなんだよ」

「それは言えない」

「ケチか」

「うるさい」


俺はムッとした。

年上の女に口で勝とうと思うな。とすでに誰かの忠告は貰っていたが、理不尽だ。


「ああ。キキロネの焼き菓子・・・」

「自分で買えよ・・・」

未練がましいジュディアに呆れを覚えつつ、あれ、と思った。


お嬢様はつまりあれを独り占めか。


忌まわしい母の姿が思い出された。

恋人から貰った菓子、絶対俺にはくれなかった。自慢はするのに、これはアタシが貰ったの、全部アタシが食べるの、なんて。


まさか。独占欲?


嘘だ。都合の良い解釈。

でもそうなら嬉しい。バカげた妄想でも。


でも、お嬢様は俺の事を間違いなく気に入っている。

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