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第十一話 手を差し出す件

「・・・ねぇ、私どうしたら良い? ウィルター」


互いに真剣な顔だ。


「この後どうなるか、ご存知ですか」

「・・・私は身分剥奪みぶんはくだつで、平民にされるって言うのは、聞いたの」


俺はため息をついた。

実はそれで終わらない。その後、毒で殺されると噂が出ている。


おかしな話だ。俺が貴族の使用人になった事よりも異常。


「旦那様も、領地没収です。辛うじて辺境は貰えて、つまり格下げになります」

どうしてそのような措置になる。理解ができない。


ジュリア・オルバンを殺そうとはしていない。脅しはかけた。嫌がらせは随分した。

だがジュリア・オルバンの方が大いに咎められるべき状態だ。どうして冷静な判断が下せない。


なお、俺がこんなに簡単に侵入できるのは、他が俺たち側に協力的だからだ。

第三王子たちだけが怒っている。王家すら、大勢の前で第三王子が言い放った言葉を取り消せないでいるために、対応に困っているらしい。


暴動が起きる予感がする。

他の家に対しても、そのような理不尽が行われるからだ。


この国はもう駄目かもしれない。と、口にするのは控える。

誰かが今の王家を廃し、成り替わろうとしている気がする。

ジュリア・オルバンが、ただの強かな娘であるはずがない。あの騒動がここまで至るなら、国を狙う誰かの、重要な手駒と考える方がしっくりとくる。


「お嬢様。逃げましょう」

俺は手を差し出した。絶対掴むつもりでここに来た。

大勢が、それをお嬢様たちに期待している。処罰が理不尽に重すぎるからだ。


「逃げるって。でも」

「でも、ではありません。良いですか。この手を取れば、俺と一緒にいられます。今しかチャンスはありません」

できれば、ご自分が選んだようにしてほしい。無理に連れ出すのは最終手段だ。


「でも」

「でも何ですか」


「・・・エディアス様は?」

「あんなヤツは忘れましょう。お嬢様に相応しくありませんでしたね。残念です」


「・・・でも」

「なんです。これが最後の『でも』ですよ」


「ウィルターは、私の傍にいてくれても、結婚はできないでしょう?」

「・・・」

真顔でこんな質問をされるとは。

動揺で俺は目線を彷徨わせた。


「取り合えず、逃げませんか。あのですね。お屋敷には帰れません。没収ですから」

「どうしよう・・・」


「俺では駄目ですか、一緒に逃げる相手としては」

「ううん。ウィルターしかいないと思う。逃げましょう」


質問を変えてみたら、急に素直にうなずかれた。決意を固めたように。

やっとか。ホッとした。


使用人仲間のジュディアから貰った服にとりあえず着替えてもらう。お一人では無理なので手伝う。

着ておられた服は邪魔なので、協力者である見張りに処分を頼む。協力者だらけだ。建前は第三王子の命令に従わなければならない。


「急ぎます」

「えぇ」


こうして、大勢の協力者の手を借りて、逃げ出した。


***


用意していた馬にお嬢様と乗る。お陰様で俺は馬にも乗れる。


没収は決まっているが、まだ没収前なので、一先ずお屋敷に立ち寄った。

旦那様と奥様には会わない。きっと逃げる邪魔になる。ここに残ればまた捕まるだけだ。

使用人たちから用意して貰っていた金品を受け取る。


お嬢様が、ご両親に会いたいとおっしゃったのを止めさせた。

使用人たちから、無事に連れ出したと報告は上がるはず。

とはいえ、至急に手紙を残されることに。読まれた後は処分された方が良い。お嬢様が逃げた後こちらに来た証拠になってしまう。

何が良いのか分からないが、思いつく限りは警戒した方が良い。


「俺が必ず幸せにすると言っていたと」

「えぇ。頼んだわよ、ウィルター」

「用心しろよ」


「はい。皆も気を付けて。無事で」


深刻な顔をしてその場にいた皆と短い会話を交わす。


「ウィルター。この本を。必ず役に立つ」

「ありがとう」

別れ際、俺の給金を管理してくれていた出納係から一冊の本を手渡された。

「ザザンさんには、本当に感謝してる」

「あぁ。信頼を疑われるような真似は一切していないぞ」


己の仕事に自信と誇りを持っているからこそ浮かべられた笑みに、俺もほっと微笑んだ。


***


「ねぇ、どこに行くのか、聞いても良い?」

「無事にお連れしますから、そこまでは聞かないでいてください」

「分かったわ」

馬車に乗る。お嬢様の質問に答えない。なぜなら、身を隠す先だから。


お嬢様がふと笑った。

「やっぱり、ウィルターがいると安心できるの」

「それは光栄ですね」


***


「すみません、口調と呼び方を、変えさせていただいて宜しいですか」

「どうして?」


「身分を隠したいので」

「分かったわ。じゃあ、シュティーナちゃんって呼んでくれるの?」


「いいえ。本名は不味いので」

「えー、嫌よ。私、自分の名前が好きなの」


「申し訳ありませんが、二番目に好きなお名前等教えていただけたら」

「じゃあ、ええと。ナナちゃん」


「ナナちゃんですね」

「理由を聞いてくれないの?」


「どうしてですか」

「口調も直さないの?」


「直します。なぜナナちゃんな、ん、だ?」

「ふふふ、ウィルター、変」


「少し練習しないと難しいですね」

「ウィルターはウィルターで良いの?」


「あー。そうでした。俺は決まっているんです。ルートです」

「どうして?」


「昔に考えて決めた名前です」

「口調、変わっていないわ?」


「本当だ。ナナちゃんはなぜナナちゃんに?」

「シュティーナの、ナ。なのよ」


「なるほど。ナナちゃん」

「えぇ」


「楽しそうですね」

「えぇ」



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