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第十話 罪に問われた件

俺は他家の使用人とも話をした。

そして、それぞれの主人を思ってジュリア・オルバン排除に動いた。

死んでほしいと思ったことは何度もある。だが、だからといって殺しはしない。脅し、身の程を分からせるつもりだった。


ただ、ジュリア・オルバンは異常なほどに強かだった。


ジュリア・オルバンを殺そうとしたと、お嬢様たちが、捕らえられた。


***


監視室という名の部屋に閉じ込められて、お嬢様は泣いていた。

ちなみにお嬢様の他に4人が同じ目にあっている。他の家も動くはず。


お嬢様を閉じ込めたのは、ジュリア・オルバンを信じてしまった第三王子たちだ。

だけど、第三王子の使用人たちでさえ、王子たちの判断ミスだと苦い思いでいる。だから俺の接触を見逃してもらえる。


「お嬢様」

俺の小さな呼びかけに、お嬢様は顔を上げた。俺を見て、驚いて息を飲む。


「ウィルター!」

「しぃ、お静かに」


「ウィルター、私どうしたら」

「大丈夫です。お嬢様は何一つ悪くないのですから」


「でも、エディアス様が」

お嬢様はまたぐしゃりと表情を崩して涙を溢れさせた。


「お嬢様、よく聞いてください。俺が悪いんです」


「え?」

お嬢様は不思議そうに俺を見上げた。俺はゆっくり笑みさえ浮かべ言い聞かせた。


「お嬢様は何も悪くありません。全部俺が勝手にしていたことです。そう第三王子様に言ってください。本当の事でしょう?」

「え、えぇ。でも」


お嬢様は具体的に、悪意の手紙を書けだの、突き飛ばせだの、脅せだの言ったことはない。


「お嬢様は泣いて困っていただけです。俺が、勝手に動いてしまった。悪いのは俺です。本当のことです。だから本当の事を、第三王子様にお伝えください。使用人のウィルターが勝手に動いてしまったと。・・・俺は腹違いの兄で、あなたの幸せを心から祈っている。その事実も第三王子様にはこっそり打ち明けてください。俺が暴走したんです」

「・・・」


お嬢様が濡れた目でじっと見つめていた。


「お嬢様。本当の事です。それに、俺の言う事を聞けば、今まで何とかなったでしょう?」

「・・・ウィルターは、賢いもの」

そう言いながら、お嬢様は頷いた。


今までにも色々と頼っていただいた。


夕食前にこっそりオヤツを食べ過ぎてしまった時は、少し熱があるから食欲がないというフリを手伝った。

先生からの課題が上手くこなせない時、半分ほどお手伝いして差し上げた。あまりに気の毒だったから。


甘やかした。だけど、お嬢様は勉強が酷く不得手な方なのだ。

一方、お嬢様には財力がある。勿論、人柄もご容姿も恵まれている。

だから、お嬢様はただ、優秀な使用人を使う事を覚えれば良い。そう教えて差し上げた。

お嬢様は、人を選び見て、得意な人に依頼すれば良いのだ。その生き方が許される立場なのだから。


お嬢様は一人娘だ。

第三王子様は、お嬢様の家に婿としてこられる。王位から外れる者が、有力な貴族の家に入る事はよくあるそうだ。

だから、領地経営などは第三王子が行っていく。

お嬢様は決して賢くある必要はない。魅了し、人々に尽くさせることができればそれで良い。家柄に加え、人柄とご容姿でそれは叶う。


なのに。第三王子が裏切った。お嬢様の方につかなかった。


「お嬢様にお仕えして、恩恵を受けて、色々と勉強させていただきましたから、俺は賢くなりました。ですから、俺の言う通りに。俺が勝手に動いてしまったと、正直に本当の事を王子様にお話しください」

「・・・えぇ、分かったわ、そうする・・・」


まるで幼い日のように、お嬢様は頷いた。


「お嬢様。個人的な事なのですが、お伝えしたいことがあります」

「なぁに?」

切り出す俺に、お嬢様の目が不安そうに俺を見ている。


「俺は悪い事をしました。捕まりたくないので、今から逃げます」

「え、嫌よ、ウィルター!」


「でも俺が悪いのですから。捕まりたくないので、逃げます。お嬢様、どうぞお幸せに。お嬢様の幸せを自分の幸せより願っているんです」

「嫌、ウィルター、行かないで!」


「いいえ。お嬢様、きちんと第三王子様に俺が悪いっていう事、言ってくださいね。あぁ、逃げるという部分は秘密ですよ。良いですね」

「ウィルター、駄目よ、私の傍にいてくれるって約束したのに、駄目よ!」


一生懸命引き留めようとする手を外して、微笑んだ。


さようなら、お嬢様。

きっと名誉は回復できる。お嬢様は、自分で人に害を与える指示を出せるような人では無い。それぐらいはあの王子も理解できる。


お幸せに。


***


「お嬢様!」


別の日。俺はまた、別の部屋に忍び込んでいた。

お嬢様がまた閉じ込められたからだ。


「・・・ウィルター!」

普段より質素なドレスを着ているお嬢様が、忍び込んだ俺に驚きつつも、駆け寄ってくる。


「『使用人が勝手に動いた、ウィルターが悪い』と言って下さいって、この前俺、お嬢様に言いましたよね。言ったのに、第三王子が信じてくれないんですか!?」

ボンクラか王子!

俺は時間を惜しんで問い詰めた。少し怒ったようになってしまったので、お嬢様はうろたえた。

「言ったわ・・・言ったのよ?」

言ったのにこれか!


お嬢様は、より監視の厳しい環境の部屋に閉じ込められている。

一度は外に出たが、すぐにまた第三王子が怒ったという。


なお、使用人たちは皆、状況に同情的で、見逃してもらって俺はここに入れている。


「どうして閉じ込められているのです。状況を説明お願いします」

「その、ウィルターが悪いのって言ったら、それは仕方ないねって、分かって下さったのよ」

とお嬢様は、オロオロしつつも、俺を見上げて訴えた。


「そうでしたか。それで?」

真剣に聞き出す。

お嬢様が、気まずそうに視線を逸らした。

「あの、私、エディアス様に、ウィルターを許してってお願いしたの。私はお馬鹿で物覚えも悪いから、私にはウィルターが必要なのって、言ったの」


「・・・」

「そうしたら、『きみは理解していない』、『やはりきみが悪い』っておっしゃって」


「・・・」

「でもね。私、ウィルターにいてほしいもの。ウィルターが傍にいてくれないと嫌なの。困るの・・・」


困ります、お嬢様。


俺は渋面でじっと俺に一生懸命状況を訴えようとするお嬢様を見つめていた。


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