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奇妙な同居人  作者: 人喰いチワワ
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『黒い髪の少女』

 私の名前は日ノ(ひのえ) (まどか)

 孤独を愛し静寂を友とし生きること25年。最後に親以外の人間と言葉を交わしたのはどれほど前のことであったか、思い出すことも思い出そうとすることもなく私は私の人生を謳歌している。

 バンザイ一人暮らし。裕福な家庭に育ち働きもせずに親の得た収入に寄生して生きてきたが、自立を促すために強制的に一人暮らしをさせられた時はどうしようかと思ったものだ。しかし今となってはこの生活こそがパラダイスだということに気付いた。

 適当に仕事をしていると嘘をつき、日がな一日誰にも干渉されることなく漫画や小説を読んでお酒を呷っている。平日の通勤ラッシュの時間には外にでて足早に歩くサラリーマンや学生を優越感と共に見降ろしている。お金が足りなくなれば親に連絡して仕送りしてもらえば良いのだ。あぁ、なんと素敵かな一人生活。老後の不安は無いのかと時折気の迷いから自分に問いかけることもあるが、そんな物は今より発展した未来の世の中がなんとかしてくれるだろう。

 そんな私の黄金期が、いつまでも長く続くと思われたその時だ。

 ガチャガチャとアパートの玄関扉のノブが慌ただしい音を立てたことに私は飛び起きた。

 な、なんだ? 誰かが私の部屋に入ろうとしている。大家か? 大家に怒られる事でもしただろうか? いや、しかし酔った勢いで大家の部屋のドアをぶち破った事は空き巣の仕業だということで決着がついた筈だ。それ以外で怒られる事は何もしていない筈だが、は! まさかあの件――

 ガチャリと鍵が外れた音がした。


「…………」


 ゆっくり開いたドアの隙間からひょっこりと顔を出したのは大家のいかめしい顔ではなく、肌が異常に白く長い黒髪少女の無表情だ。


 ひぃ!?


 このアパートが割と古めかしいのとカーテンを閉め切っているせいで部屋全体が薄暗かったこともあって、和製ホラー映画に出てくる幽霊のようだ。

 なぜ無表情で入ってくるのか……。いや満面の笑顔で入ってこられても怖いが。

 しかし少女は部屋の中を確認するように首を動かすと、開きかけだったドアを更に開け放った。白い光を背景に少女の全体像が見える。白い襟に紺色ベースのワンピースに踵の低いパンプスを履いている。大人女子というよりはお金持ちのお嬢様といった出で立ちだ。細身で足が長く同性として嫉妬する気も起きないほど容姿に恵まれている。リアルお嬢様な私よりもそれっぽいのだから驚きだ。

 思わず凝視していた私だが、ふと我に返る。

 部屋の中を確認してドアを開け放ったということは、イタズラで開けたわけではなく、部屋の中に目的があるということなのだ。

 だ、誰……?

 日常で声を出す機会が無かったためひどく掠れた声で私は少女に声を掛けた。少女の目的が何なのか、怖くても問いかけねばいけなかった。しかし、帰ってきたリアクションは予想と違ったものだった。

 少女は初めて私に気付いたというように眉を上げたのだ。驚きの形に。

 いやいやいや、それ私のリアクションだから!

 なぜそちらが驚くのか訝しんでいると少女は表情を無機質なものへと戻し口を開いた。


外場(そとば) 朱莉(あかり)と申します。今日からこの部屋に住むことになりましたのでよろしくお願い致します」


 そう言いきると、こちらの返答を待つこともなく靴を脱ぎ丁寧に揃えると部屋に足を踏み入れた。私の不可侵領域が侵される!

 ちょっとまって! 突然過ぎて訳がわからないわ。貴方がここに住む? なんで? 私が住んでいるのに! と、私が慌てて捲し立てた。

「この部屋に住む事は私にとって都合が良いのです」

 いや私の都合は!? という叫びもむなしく、卒塔婆……いや外場朱莉さんとやらは畳の上に腰を落とすと一息を吐いた。

 いとも容易く行われる侵略行為。

 なんなのだろうこの娘は。掴みどころが無く得体が知れない。そして図太い。私の質問をことごとく適当に流しているように思える。

 大家はこの事を知っているのだろうか? 知っているからここに居るのだろうが、私には一切そんな話しをしていなかった。これは遠まわしに私に立ち退けというメッセージなのだろうか。いや、全然遠まわしじゃないどころか強制退去に等しいけども!

「……」

 外場朱莉がすくっと立ちあがり服を脱ぎだした。

 いきなりなに?

「外出用の衣服ではくつろげませんので」

 言葉と同時にワンピースがストンと落ちた。こちらに背を向けている状態だが、私が息を呑んだことに気付いただろうか。顔や手の様子からある程度察していたが衣服に常時包まれている背中は更に白く感じた。冷気すら感じる雪の肌。日本人形のような顔をしている癖に日本人離れした肌を持っていやがる。いや、でも日本人形は大体色白か。

 だがしかし、私が息を呑んだのは他の理由もある。これは息を呑むというよりは言葉を失ったという言葉が正しいのかもしれない。そのキャンパスのような薄い背中にはおぞましくも醜いモノが描かれていたからだ。

 それは傷だ。

 (おびただ)しい傷だった。

 キャンパスを塗りつぶす勢いのそれは古い物から新しい物が混在していた。できた傷の上から塗りつぶすように新しい傷を重ねたようにも見える。いったいどういった過程でこのような背中になるのだろうか。私は想像することが怖くなった。

「……突然黙られると怖いのですが」

 いやいや怖いのはこっちだから。

「この傷ですか? 家庭の事情です」

 どんな家庭環境で育ったんだ……。しかしそれっきり外場朱莉は口を閉ざし話しの続きが始まる事は無かった。

 ……?

 彼女が着替えの衣服を手に持っていることで私は首を傾げた。

 ここに住み始めると言っていたワリに部屋に入ってくるときは手荷物らしきものは持っていなかったように思えたが、いったい何処から着替えを出したのだろうか。

「前々から荷物を送っておきましたから」

 ……え?

 更に私は困惑した。そんな荷物が送られてきたことなんか……ってある!?

 部屋の隅に見覚えの無い段ボールが積まれている! いくら生活スキルが壊滅的で部屋の配置に無頓着な私でもこんな荷物が積まれていれば気付くはず――ていうかいつ運び込まれたのか!? こわっ!

「まぁ、そんなわけなのでこれからしばらくよろしくお願いします」

 どんなわけなのよ……。

 私と彼女の奇妙な同居生活が始まった。


タイトルに〝喪女の〟って付けるか迷いました。

〝喪女の奇妙な同居人〟

……語呂が良いですね?笑 本編にジ○ジョ要素はありませんのであしからず。

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