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白無の圧

 ひたりひたりと、ゆっくり近づいてくる仮面の人物。その妙な圧に、思わず二人は後ずさる。この空気の元凶は目の前にいる。即刻退治すべき者、というのは頭の中でわかってはいるものの、その気力さえ吸い取られてしまったように動けなかった。


「…はて、何故(なにゆえ)、我から離れんとする? おぬしらとて、我と同じ類の者だとばかり思い逢いに参ったというに」

「…っ"同じ"…?」

「突然現れるような輩と、同類にされる覚えは無いんだがな…っ」


 械樞(からくり)を構えながら、なんとか正気を保たせるように問答する桜香と響夜。それに対し仮面の人物は、飄々とした様子で、ゆったりと歩を進めてくる。と、その瞬間…気付けば桜香の目の前に現れ、いつの間にか腕を掴まれていた。目と鼻の先には、無表情な白い仮面。


(…――速い…っ!)


 仮面の奥から、冷たく鋭い眼光がちらつく。視線が合った瞬間、桜香は完全に動けなかった。更に自分の腕を掴んでいる手は、細身でありながら想像以上に力強い。そのまま、桜香は地面に押し倒されてしまった。


「…っ何を…!!」

「ふむ…これが"女"か…」

「っ!?」

「それにしても…おぬし、"やっぱり"我と同じではないか…」

「…それ…どういう、こと…?」

「貴様っ離れろ!!」


 まじまじと自分を見ながら妙な事を呟く仮面のその言葉に、桜香は眉をひそめる。その隙をついて、響夜は彼女と仮面の人物を引き離した。護身用の小刀を横薙ぎに払うが、掠めることもなく、軽やかにかわされてしまう。距離を取ってふわりと着地したその様子は、まるで造作もないと言わんばかりの余裕があった。しかし、何か琴線に触れたのか、先ほどよりも冷たい雰囲気を纏っているように見える。ゆらりと顔を上げると、今度は響夜に向かって言葉を紡ぐ。


「…おぬしもわかっておらん…元より我とおぬしらとで変わりないというに…一度目覚めさせなければわからんということか…」

「目覚めさせる…?」

「珍妙なことばかり言ってないで、まず自分から名乗ったらどうだ? 貴様と俺たちが同類かどうか、確かめてやろうじゃないか」

「そうか、まず名乗らねばならんのか。"人"というのは面倒なものよ」

(何…? なんだか自分が人ではないって物言い…)

「しかし…うむ…そう言われても困ったものだな…我に名乗るような名は無いのだが…」

「名が無い…!?」

「どうしても名乗らねばならぬというのなら…そうさな…"世羅(せら)"でどうだろうか?」


 掴みどころのない彼から出た"世羅"という名。無邪気に顔を傾げているものの、その表情は仮面の下に隠され読み取れない。ころころと笑っているのか、名が無いということに困った顔をしているのか。その所作がまた不気味だった。

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