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"無"の存在、畏怖の対象

 屋敷から出て、二人は周囲を警戒しながら道を進んでいく。気付けば雨は不思議とすっかり止んでいたが、道を進むごとに、先ほどから二人の感じていた重々しい空気が確実なものへと変わっていった。その空気に心が押し潰されそうになりながらも、桜香は響夜の後に続いて歩いていく。前を歩く彼もまた、進むことに躊躇しているように見てとれた。


「…響夜…これ、枯魔だと思う…?」

「わからない…枯魔、かもしれない。……もしかしたら、また別の何者かもしれない」

「……っ」


 桜香も気付いていた。この空気は、明らかに枯魔とは大きく異なるものだと。今まで枯魔と対峙してきた中で、討伐に苦戦した大型の枯魔ももちろん存在するが、これほど驚異的…否、狂気にも近い禍々しい空気を放つようなものは一切いなかった。だからこそ、二人は不安で仕方がなかった。

 これまで討伐してきた枯魔たちを上回る程の脅威。その正体は一体なんなのか…。そういったものが、一度でも噂として耳に入ってきたことがあっただろうか。二人は記憶を辿り頭を巡らせながら歩いた。


「…桜香」


 響夜が突然歩みを止め、桜香を庇うように片腕を伸ばし制した。彼のその行動に、桜香も素直に従う。何かに警戒するようにゆっくりと、再び慎重に進む響夜。その目線の先には、猫が力なく倒れていた。


「…猫…?」

「寝てる…訳じゃなさそうだ。馬車に轢かれた…」


 近づき確認しようと触れた途端、響夜はあることに気付く。猫の体温が、まだ仄かに残っているのだ。彼の言う通り、眠っている訳ではない。しかし、目立った外傷は見えない。そこまで年老いているように見えないうえに、特に病気を持っているようにも見えない。なのに、"息絶えていた"。それも、二人が来る寸前で。響夜は、先ほどから微かに感じていた悪寒をはっきりとその身に感じ、急ごしらえで周囲に結界を張った。


「桜香! 構えろ!」

「ちょっ…何!?」

「近くにその正体がまだ潜んでる!!」

「!!」


 響夜の言葉に、桜香も理解する。慌てて自身の械樞(からくり)を構え、響夜と背中合わせにその時を待った。すると、周囲一帯の空気が急激にひやりと重苦しいものへと変わっていく。季節は冬でもないのに、二人は強い寒気に襲われた。その寒気に誘発されてか、見えない存在に対する恐怖からか、体が否応なしに震えだす。冷や汗も止まらない。息遣いも荒く短いものになる。

 そして、とうとうその元凶ともいえる"人物"が、二人の前にその姿を現した。


「ほう…? 面白い力を感じると思ったが、おぬしらがそうか…?」

「!!」


 "それ"は音もなく、どこからともなく現れた。二人に近づく足音すらなく、その場に忽然と"出てきた"のだ。死装束のような真白な着流しを纏い、裸足で立つ者。顔は仮面で覆われ、二人はますます不信感を募らせた。

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