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"無"の降誕

 その気配の予感は桜香や響夜も感じており、晴れる気配のない嵐は更に強まり、夜も深くなった頃。それは人知れず静かに現実のものとなった。都のとある一角…激しさで霧を伴う雨に紛れ、今まで潜んでいたその存在が色濃く現れる。"それ"は、一言で言えば"無"だった。死装束のような真白な着物を纏い、履き物は履いておらず裸足で、顔は無表情な白い仮面で隠されている。体型を見る限り、男性だろうか。激しい雨に打たれているにも関わらず、鬱陶しそうな、急ぐような素振りも見せずにゆっくりと地を踏みしめるように歩いている。木の下で雨宿りをしていたであろう猫が、得体の知れないものに怯えるように威嚇していた。


「…あぁ」


 男はぽつりと息を吐くように呟いた。


「"ここ"もいずれ…」


 雨の音にかき消されそうなほどの静かな独り言。ぽつぽつと紡ぎながら、威嚇する猫の脇をするりと通る。


「さぞ悲惨な場となるのだろうな…」


 仮面の下で、にやりと薄ら笑う。その目線の先──…少し遠くに見えるのは、都の結界も担う硝宮の屋敷。屋敷を見据えながら、歩みを進める男。彼の後方には、先ほどまで威嚇するほど元気だった猫が、力なく倒れていた。周囲の空気が、ひやりと重く肌に纏わりつく。人知れず、その"無"は霧と雨の中に溶け込んでいった。


「あ…っ」

「桜香…? 眠れないのか?」


 それと時を同じくして、硝宮の屋敷は寝静まっていた。この二人を除いては。


「明日も早いんだ。今日はもうゆっくり休んで…」

「響夜…」

「…あぁ…"何か"が近くにいるな…」


 二人は、屋敷の周囲に立ち込める、重く異様な空気に身を構える。息を潜め、各々の械樞(からくり)を手に取る。これから何が起こるのか、全く予想がつかなかった。見えない不安が、こんなにも恐ろしいものなのかと、枯魔退治の依頼をしてくる人々の思いを実感する。屋敷の結界は正常に作動している。それにもかかわらず、覆い被さるように押し寄せる見えない脅威がそこにはあった。

 真相を確かめるため、屋敷内の他の人間を起こさないよう静かに外へ出る響夜と桜香。雨は不思議と、先程までの激しさはなく霧雨へと変わっていた。外へ出て、改めて実感する。二人とも感じていたのは、「この空気は普通じゃない」ということ。それが屋敷の中と外では大きく異なり、尋常ではない異変だった。しかし、その異変が具体的に何か、というものが全くわからない。不安をさらに増長させるこの事態に、焦燥感に駆られるのは当然のことか。早く原因を解明しなければ、と二人の表情が物語っている。


「これは…油断できないな…」


 響夜がぽつりと呟く。その言葉に、桜香はさらなる不安を覚える。脅威と対峙する(とき)は、もうすぐそこまで迫っている…

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