山月記 後日談
元ネタ
主人公:李徴
主人公の旧友:袁傪
あれから半年以上が経ちまだ少しだけ人間の心が残っている頃、山の中をひょろひょろ
と歩いていた。何もすることはなくただ時間をもてあますだけだった。するとそこに人間の声が聞こえた。どこか懐かしい声だった。その声の主は我が旧友の袁惨と妻子であった。
私は身を隠し、耳を澄ませた。私は内心嬉しかったのだ。私の頼みを聞いてくれた、それに妻は嬉しそうだった。私は今でも妻を愛している。子供も少し成長したように見える。虎になって初めて、幸福になれた気がした。妻と袁惨の会話を聞いていると私の名前がでてきた。妻が私を恨んでいるということだった。無論、確かにそうだ。私の都合で生活は厳しくなり、周りの人間からは笑われ、ひどい暮らしだったからだ。今では申し訳ないと思っている。
真実を知っている袁惨がなぜか私の悪口を言っている。最低だとか生きる価値はないとか君は僕が守るからとかいっている。昔から袁惨は女癖が悪かった。噂だが私の妻を狙っていると聞いたことがある。
私は激怒した。心の底から信じていた旧友までもが自分を裏切ったのだ。私は許せなかった。すると、心の奥底から虎が出てきた。気づいたら私は走っていた。そこからの記憶はない。気づいたら口元が血だらけになっていた。私は背筋が凍った。周りを見渡すと袁惨と妻子が血だらけになって倒れている。腕はちぎれ、足には歯形残っていた。私がやったのだ。怒りのあまり虎の心が出てきてしまった。私は涙が止まらなかった。少し気持ちが揺らいだせいで愛する妻子までも自分の手で殺したのだ。私は泣きながら走った。こんな自分を許す者などいない。
崖についた。私は自殺を心の中で決めた。崖から落ちようとした時、後ろから男が話しかけてきた。
あなたは人間なのではないですかと聞いてきた。彼は自己紹介をしてきた。彼の名は中島敬だ。彼も昔、虎になったことあり、今は小説家らしい。私は今までのことを全て彼に話した。すると彼はこの話を小説に書き留めたいと言ってきた。私は頷いた。
彼と話していると心の中にある絶望感が少しずつ和らいでいった。話し終わった後、彼は一礼してどこかに消えていった。人間になれた理由を聞きそびれてしまった。
頭の中で袁惨と妻子のが出てきた。3人を忘れることなどできない。しかし、それを受け入れるしかないのだ。私が殺したのではない私の中の虎が殺したのだ、私ではない。私は虎としては生きるつもりはない。人間として生きていきたい。彼も諦めなかったから人間に戻れたのだ。私もいつか人間に戻ることを願い、生きていく。私は少しずつ歩幅を大きくしながら、山の中へと消えていった。今もどこかで生きているのかもしれない。虎か人間として。