ハーピーの娘
『明日は、祭壇に行くか?』
『いきません。』
『そうか、なら昔話をしようか。』
『昔話?』
『そう、魔物に育てられた少女と騎士の残酷なお伽噺さ。』
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むかぁーし、むかし今より人と魔物が啀み合っていた時代に本当にあった話。
『それって、そんなに昔じゃ無いですよね?』
『黙って聞け。』
『はーい。』
ある王国で若くして騎士団長にまでなった青年がいた。
青年には身寄りがなく、自身を助けてくれた国王のため身を粉にして国に尽くした。
国王は、青年を実子のように可愛がっていた。
あるとき、青年を妬む王子と貴族が手をくみ陥れ国から追放してしまいます。
王子から放たれた追手を撒くために、青年は怪我を負いながら森に逃げ込みました。
数日ものあいだ飲まず食わず森を走ったがついに力尽き倒れてしまった。
青年が目を冷ますと洞窟のような場所にいて、下には鳥の巣を思わせる木などがあり、と言うか巣だった。
自身は魔物に喰われるのかと青年が思っていると、自身より二つ三つ違うだろう少女が木桶にボロ布を浸けて持ってきた。
青年が「ここはどこだい?」と聞くと「わたしの家だよ。」と言った。
少女は青年の傷を拭きながら
「どうして、貴方は倒れていたの?人間は、ハーピーの森の奥深くまで普通は来ないのに?」と聞けば、青年が戸惑いながら「王子と貴族達に嵌められてね。」と言う。
少女は「そう。」と一言頷いた。
日がくれる頃、バサバサと翼の音が近付いてきていることに青年は気付いた。
「姉様達が帰って来たみたい。紹介するわ。」少女はそう言って洞窟から出ていった。
強い風が洞窟に吹き込んで来ると、少女が4匹の魔物、狂暴と呼ばれるハーピーを連れてきた。
はじめは青年にキツく当たっていたハーピーたちは青年の話を聞くと匿ってくれると言う。
青年が、ハーピーたちに少女の事を聞くと赤子のときに拾ったのだと話した。
そんな、青年と少女は共に暮らすうちにある感情が芽生える。
“恋”だ。
ハーピーたちはそんな二人に昔、人間が住んでいた小屋を与えた。
二人はキョトンとしていたが、狩りのしかた、水飲み場などを教えた。
そして、二人は愛しあい子を成した。
二人の子は、それはそれは愛らしい女の子。父親譲りの金髪に母親譲りの琥珀の瞳を持っていた。
ハーピーたちも、ときたま訪れてはその子のために歌を奏でては帰って行った。
そんなとき、狩りをする青年と傍に寄り添うこれまた美しい女性を、これまた狩りをしに来た王子が見付けてしまう。
王子は美しい女性が欲しくて欲しくて堪らなくなってしまった。
王子はバレないように矢を放ち、青年を貫いた。
女性は悲鳴を上げて青年に駆け寄った。すると、女性の悲鳴に反応したようにハーピーが襲って来たのだ。
王子は従者を犠牲にして、命からがら王国に逃げ帰り、王様に襲われた事を話して森のハーピー達を狩り始めたのだ。
彼女は毎日減っていく魔物やハーピー達に、徐々に衰弱して弱る青年に涙した。待宵の月に見守られ青年は息を引き取った。
その晩、 彼女は4人の姉のハーピーに娘を森の化身と呼ばれる魔法使いの所へ連れていって欲しいと頼んだ。ハーピー達は不思議そうにしながらも、妹の願い事を叶える事にした。
次の日に姉のハーピー達と彼女は骸を森の奥、深森の中央の滝壺の裏の洞窟に運んだ。その細い道を奥に進めば開けた場所に着く。満月のためか何処からか月光が周りの凍り付いた岩を照らす。
中央は湖の様に水が張っており、その真ん中に氷の祭壇が存在している。水かさは余りなく、膝より少し上ぐらいだ。彼女は骸を祭壇に寝かせ、膝を着いた。膝をつくことで水は腰辺りまでになり、彼女は手をくみ祈った。
4匹のハーピー達は辺りの氷の岩などに彼女を囲むように座れば、唄い出す。
一匹は哀しみの唄を、
一匹は幸せの唄を、
一匹は平和の唄を、
一匹は怒りの唄を。
彼女は祈る。
唄にあわせて、彼女は祈り願う。
森の幸せを、
森の喜びを、
森の平和を、
我が子の幸せを。
彼女は自身の全てをつかい祈る。
祈りは明け方にまで及んだ。
初めに怒りは止み、
哀しみも止まり祈りの声も融けていく。
幸せと平和も共に止み、
その場所には美しい氷があるだけ。
中央には美しい女性と祭壇に眠る青年。
青年達を囲むハーピーの姉妹。
彼女達は氷となった。
森を守るために。
それは、森の化身の一番弟子である彼女だから出来た。
“奇跡の結界魔法”
森を包んだ力に魔法使いは嘆いた。
一番弟子がした選択に、魔法使いは憂い涙した。
魔法使いは使い魔に子どもの世話を頼み王国へと乗り込んだ。
実は、魔法使いと国王は古くからの友人であった。全ての真相を知った王様は怒り王子と貴族に重い罰を与え、森に手を出さない事を約束した。
こうして、ハーピーの森は平和になったのでした。
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『それで終わりですか?』
『あぁ。』
『とても、可哀想なお噺です。』
『そうでもないさ。』
『どうして?』
『だって、あの子は愛する男の骸と姉たちと一緒に逝けたんだ。あの子の子どもだって、あの子が守った森で平和に暮らせてる。』
『ねぇ、お師匠様。なんであの人は子どもを連れていかなかったんですか?』
『それは、二人の愛の形だからさ。』
『愛?』
『二人の愛の結晶。二人が存在したと言う証拠。そして、お前を愛していたからさ。お前の母親はちゃんとお前を愛していた。だから、俺に預けたんだ。』
『お師匠様、』
『なんだ?』
『祭壇に行きたいです。』
『分かったよ。明日の晩、晴れたらお前の両親に会いに行こうか。』
『夜ですか?』
『今日の月をご覧?』
『月?今日は待宵の月ですよね?満月の前の。』
『そう。そして、明日は満月だ。きっと良いことがあるよ。ほら、ご覧。俺の占いは当たるって評判なんだ。』
『お師匠様?』
『まぁ、明日のお楽しみだな。』
『気になります。』
『ほら、もう寝ろ。色々、成長しないぞ。』
『だれが、コロボックル並みですか!ちっちゃくないです!』
『はいはい。』
『アイツはお前にソックリだよ、琥珀。月夜の再会、ね。』
やったことに後悔はしていない。