目覚め、そして覚醒。
今日の投稿は終わりですかね。
――この町は、『人形町』と呼ばれていた。なぜそう呼ばれているのか、答えは単純にして明白。
人形が、自分の意思で動くからである。自我を持ち、感情さえも表現する。
そんな人形を作ったのが、僕の父である樞繰源その人である。
父は僕がまだ小さかった時、母と僕を家に残してどこかに行ってしまった。まぁ、その時のことを恨むわけでもないし、根に持ってはいないが。
母親と僕は一生懸命働いた。母は、僕を育て上げなければ、という強い意志を持ち、僕は僕なりに母の役に立とうとゴミ拾いさえした。ほんの少しでも、母に貢献したかったのである。
父の代わりに、僕が何とかしなければと、そう思っていた。
――そんなある日。父がフラっと帰ってきたのである。その傍らに『動く』人形を抱えて。
玩具じゃない。自分の意思で、動いていた。
二足歩行で歩き、言葉を喋る自立型人形。
驚きはしたが、僕は父が帰ってきたことに喜んでいた。人形を連れていても、三人でまた一緒に生活ができると思ったから。
……でも、そんな夢は訪れず、父の言うがままに、あの部屋に入れられたのである。
中から鍵は開けられず、窓もない暗い部屋。用のある時以外、部屋の外に出ることは許されず、敷地内でさえ、出歩けなかった。父は十年間という約束で、僕に命じたのだ。あの部屋で暮らすことを。
母は父に抗議したようだったが、それも受け付けられず。十年間、僕は一人きりだった。
まぁ、そんな日々を終えて、今日が約束の十年目。父が帰ってきて、十年である。
「――遅かったじゃないか。なにかトラブルでもあったのか?」
「いえ、別に。そんな事はありませんよ父さん」
「それなら、いい」
父と顔を合わせるのも久しぶりだった。昔の面影は残っているが、少し老けた父の姿。
だが、その瞳に込められた意志の強さ、というかなんというか。物事を見据える真剣さはひしひしと感じとれる。
僕は、父が腰かけている椅子の反対側の席に腰を掛けた。長方形のテーブルを挟み、父は僕が話を聞ける状態になったところで、その低い声を僕にかける。
「さて。一式、今日が約束の日だったな」
両肘を机につき、父の視線は真っ直ぐ僕に向いていた。
「はい。僕の記憶が正しければ、そういう認識で合っていると思います」
「今年でお前も十六になる。約束通り、学校に通ってもらいたい」
「はい。わかっています」
何気ない会話にも、僕は気を遣う。もしかしたら、また、あんな毎日が待っているかもしれないから。
きっかけなんて、そこらへんに転がっている。何が起こるかわからないのが世界の理。
僕が、父に気の障るようなことをしでかしてしまったら……そんな事は考えたくない。
「……一式」
父さんの声音が、より低いものへと変わった。一瞬、心臓が跳ねる。粗相をしてしまったのか? と。
――しかし、その心配はなく。
「……お前も随分、髪が伸びたな」
「そうですね。一切、髪の毛は切っていませんでしたから」
また明日、家に帰ってきたら投稿しようと思います。では、また。