目覚め、そして覚醒。
初投稿でございます。誤字脱字等がございましたら、報告の方お願いいたします。
「おはようございます。一式さん、早く起きないと遅刻してしまいますよ」
感情のこもっていないその人形が、僕の体を揺すった。
緑色の髪をだらんと下げ、僕の顔を覗き込むようにして。
「うん……わかってるよ」
温もりを感じないその手を優しく払いのけ、カーテンの隙間から見える太陽に、僕は目を細めた。
氷を溶かしていくように、じっくり脳内を覚醒させていく。まどろみ状態で、視界もはっきりしていないからか、体がいつも以上に重く感じた。
「大丈夫ですか?」
「眠気も覚めてきたよ。……いつもありがとう」
「いえ。命令ですから」
十年間続いた、いつも通りの会話だった。何もない、それこそ、人間として足りない部分を隠そうともせず。一切表情を変えない彼女は、ただ頭を下げるだけ。
「もう平気だから。仕度を終えたらすぐに行くよ」
「了解しました。では、これで失礼します」
名前を持たない彼女は、ただ静かに部屋から出ていった。その戸が閉まると同時に、僕は一つため息を零す。
「はぁ。……学校、か」
思えば長かった。こんな生活、もうこりごりだった。
身の回りの事は、なんでも人形がやってくれた。それこそ、掃除に洗濯、炊事まで。
操り人形のような生活。部屋から出してもらえない虚無感。やりがいも何もない。ただ、時が過ぎるだけを待つことが毎日の日課だった。
それが今日で終わる。改めて過去を振り返ってみれば、本当に僕は何にもしていなかった。思い出もなにもない、からっぽな日々。
――強いて言うならば。
「シストリア。君だけが僕の全てだったんだよ」
喋らない人形、シストリア。僕は自分の身長よりも高いその人形の頬を撫でる。
磁器製の人形の頬は冷たく、生気は感じられない。
僕にはすることがなかった。だからこそ、一番親近感を覚えるのも彼女だった。喋りはしない彼女だけど、子供の時から一緒に過ごしてきた。同じ空間で、同じ時間の中にいた。
「でも、今日で君ともお別れか……。なんか、寂しいよ」
名残惜しくもあったが、僕はシストリアから手を離す。いつまでも降りてこない僕に、また人形たちが部屋を訪ねてくるかもしれない。この空間に、本来ならば誰も干渉してほしくない。
身支度を終わらせ、僕は部屋を出る際、もう一度シストリアの方に顔を向ける。
「行ってくるね。今までありがとう」
――カタッ。
部屋の戸を閉めるときに、何か物音がした気がするが、僕は気にせずリビングに向かうのだった。
少なかった……ですね。まぁ仕方ないんですよ。まだ初投稿ですし大目に見てください(白目