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半人半骨 病弱少年は半骸骨となり  作者: 砂鴉
第1章:惨劇が告げる始まりの物語
9/82

第7話:異世界、とは

説明回、になります

 少し間をおいてのログハウス内。


「遅くなりました」

「良かったのかの? お嬢ちゃんは?」

「いい……じゃ、爺さん。話してくれ」


 これから聞くのはこの世界について、そして俺の現在の様子について。この二つがメインとなる。

 話を聞く前に立夏は眠ってしまった……というか、寝るのを待っていたと言った方が正しいな。

 彼女は12歳。この間、小学校を卒業したばかり。ここまで緊張の連続で兄と友人を失った。肉体的にも精神的にも限界をとっくに超えている。さすがに休んだ方がいいだろう。しばらくは話を聞こうという体勢で居たのだが、途中から舟をこぎ出し、ついさっき眠りに着いたところだ。

 “自分たちの身に起きたこと”という重要な内容で彼女も知るべきことだ。だから立夏には後で俺が伝えることにした。

 というのも、良隆さん曰く、立夏には辛い事実も含まれるとのこと。先に俺が聞いて、噛み砕いた説明にした方がいいかもしれない。


「さて、ではまずはここに来た経緯を教えてくれい」


 茶をすすりながらエロジジイ――もといシグダールが問う。

 ここまでのことから、ここが全く違う世界――異世界なのだろうという事は俺にも察しがついた。現実に居る筈のない超巨大な虫たち。それだけで察するには十分な情報だった。


「俺たちは八島ってところの鍾乳洞から出ようとしたらこの森に出て……」

「八島か……拙者が来た時とは場所が違うな」

「良隆さんも俺達と同じところから来たクチなのか!?」

「うむ、拙者は京……本能寺に居て気づいたらここに」


 場所は全く違う。という事はこちらへの入り方に場所の制限はないのだろうか……

 しかし本能寺か……そこは歴史的大事件の現場だろ。まさか、その時代の人物? あらぬ妄想を頭の隅に追いやる。今重要なのは現状を把握すること。それに尽きる。


「なるほど、良隆と同じ世界から来たのじゃな。ならば話すこともいくらか絞れるかのぉ……さて、そうじゃな。どこから話したものか……」

「じゃあ、俺の状況を教えてくれ。この左腕はどうしちまったんだ?」


 左腕を見せつけながら答えを促す。己の身に起こった現象、死んだはずが蘇り。その真相はこの左腕、そしてあの時の何者かが握っている。あれ以来何も聞こえないが。


「よかろう。まず、分かっておるだろうが小僧、すでに死んでおるぞ」


 一度、幽体離脱を経験したことが決め手だ。謎の声も『新たな生を掴める』と言っていた。新たな生、すなわち古い生はすでに終わっている――死んでいるという事。だが、


「じゃあ何で俺は今こうしていられるんだ? 良隆さんは死霊になったからって言ってたが……」

「その通りじゃ。お前さんは死霊としての生を得たという事じゃ。偶然な」


 死霊。死んだ者の霊。霊と言えば幽霊とかお化けとか、怪談なんかで怖がられるあれか。何かに憑りついたり、恨みの原因となる生者を恨みながら追い回す霊のこと。

 まぁ、お化けなんて実際そんな恐ろしいものでもないけどなぁ。


「こちらでの死霊とは、生物が死んだとき、その肉体に周囲の魔力が蓄積していき、一定以上溜まった時生きていた時の身体を動かし再度この世界に降り立つことが出来る。まぁ蘇りした、と言った方が簡単じゃな」


 魔力? ファンタジーな物語の何かかこれは? まぁとにかくそのおかげで俺は生き返ることが出来たのか。

 俺が死んだときのことを思い返す。霊体として己の死体を見下ろしていた時、周囲の黒い炎が消えると同時に死体が黒いオーラに包まれていった。あれが魔力だろうか?

 そこでふと思い当たる。あの時の黒い炎は、シグダールが出していた炎と感じがそっくりだった。ひょっとして……。


「小僧の場合は魔力に適性があったこと、ワシの炎の魔力を吸収したことで死霊になる事が出来た。と言う訳じゃな」

「あれジジイの炎だったのか!?」

「感謝するんじゃぞ。ワシのおかげで死霊として、今ここに居るのじゃから」


 「ほれほれ感謝はどうした」と意地悪くお礼をせしめるジジイに感謝する気など全く起きない。逆にイラつかせる言動から殴りたい。だが……


「……ありがとう……ございます」


 さすがに感謝しない訳にはいかなかった。礼儀がは必要、大切だからな。

 しかし、そうなるとあの時の謎の声はこのジジイ――シグダールが正体なのか? 随分と印象が違うが……。とりあえず聞いてみた方が早いか。この嫌味で得意げな――不気味――な顔に聞くのも気が引けるが。


「なんじゃそら。ワシはそんなん知らんぞ」


 見事に突っぱねられた。ここまですっぱり「知らん」と言われると内心イラッと来るが、この回答は俺の“謎の誰か”に対する印象が間違っていなかったことを指す。しかし、俺を蘇らせた魔力の持ち主のシグダールがそれを知らないとなると、あれはいったい……?


「……まぁよい。次に行くぞ」


 何かを思案するように視線を泳がせ茶を啜るシグダール。


「死霊の特徴としたら生まれた時の身体を保つこと。それから魔力が体を動かす原動力になる事、後は核が破壊されたら二度と動けん、と言ったところか」


 一気に特徴を並べていくシグダール。それを一つ一つ整理しながら頭に叩き込む。自分に大きく関係する事柄なので聞き洩らしの無いようにまとめる。


 まず一つ目は死んだときの身体を保つ。これは、死霊として復活した時の身体を指すらしい。俺の場合は死んですぐに死霊となったため生身の身体をほとんど保っている。逆に良隆は死んでから月日が経ったのちに死霊となり、その時には肉も皮も風化して無くなっていたという。だから骸骨の姿なのだとか。

 また、復活する際に失われていた体のパーツは、本人の強い意志と誕生の際に体内にため込んだ魔力によって再生が可能になる。俺の場合は左腕――なぜに骨状態で再生したんだ……。良隆さんは内臓器官の一部と脳。ちなみにシグダールも同じらしい。


 二つ目に魔力が身体を動かす原動力ということ。“魔力”というのはこの世界で生きる生物全てに宿る生命力のようなものらしい。生存競争に勝つために体内の“魔力”を利用して“魔法”なんかも使えるとかそれはちょっと楽しみだな。ま、ともかく魔力が血液の代わりとして原動力となる成分・栄養を身体に送り届けるのだとか。ちなみに他の生物は魔法とかの特殊な力を使う際にこの“魔力”を使用し体外に放出するが、死霊は普通に生きるだけでも体内の魔力を消費がしていく。血液の代わりを担っているからだ。

 “魔力”はこの世界に生きる生物全てが体内に持っている力で、その“体内魔力量”で揮える力の差が大きく異なる。要は、体内魔力量が大きいほど強い、ということだ。この体内魔力量は戦闘を積めば積むほど、その容量が大きく、強大になれるらしい。

 ゲームで言う経験値の要領だろうな。


 三つ目の“核”とは心臓のことらしい。死霊は死んだ体に宿った魂が本体。いくら体が傷つこうと、多少の傷などはものともしない身体を得る。持っている魔力の消費でいくらでも再生が可能になるからだ。しかし、便利な身体の代償としてか核が壊れるとどうしようもない。

 核とは本体である魂の宿る場所。生前は肉体と魂が隅々までつながっていた。しかし、死を迎えた時その全てが切り離される。死霊として生まれた際に肉体の方に適性があれば魔力を吸収、周囲を漂っている魂を繋ぎ止め再び肉体と魂の繋がりを生み出す。要は本体の宿る場所。当然それは、破壊されたら魂の消滅を意味する。死霊にとっての死を迎えるという事だ。


「他にもいろいろあるが、我らはあくまで死体。それは変わらんことだ」


 良隆が締めくくり、俺も己の現状をいくらか理解したつもりだ。あの声が言っていた人間ではなくなるというのは死体――ゾンビに、骸骨(スケルトン)になれと言ったところか。

 ただ、俺は幸運だ。死体になったとはいえ、この身体は人間だった時とあまり勝手が違わない。良隆さんのように完全な骸骨になるのも面白そうだが、自分があんな不気味な容姿になるというのも考え物だ。すなわち、俺は案外いい感じで新たな生を手に出来たのだ。ただ、


「死体……死体かぁ……」


 脳裏に浮かぶのは某有名RPGの死体モンスター。身体がドロドロで目がずり落ちているアレだ。死体という事は、あれとも同類同種になったという事か。いや、一様本体は魂であり、今の身体は仮の身体。という事は、あれよりも実体を持たない霊体と言ったほうががより近いだろう。

 だが、霊体として魂のみでの活動が出来る者はかなりの実力者であるらしく、当然今の俺にはできっこない事だった。元から魂のみの存在である霊体(ゴースト)という種族も存在するが、その他の死霊族は肉体から魂を抜きだし、魂だけでの活動は至難の業。そして、俺はその霊体ではない。

 つまりはやっぱり溶けかけ死体と同類……なにそれ。


「ちなみに坊主の種族名は“半骸骨(ハーフスケルトン)”と名付けよう。実際には死体(ゾンビ)種が近いが、その左腕骨は一際強大な魔力を持っとるからの、骸骨種に分類できるじゃろ」


 種族名。一様そう言うのも存在するんだな。ちなみに良隆は“骸骨侍(オチムシャ)”、シグダールは“死霊皇帝(デッドエンペラー)”らしい。両者とも元となる種族“骸骨スケルトン種”と“死体(ゾンビ)種”の高位種族に当たるらしい。さらに言えば、同種の他の者よりも格段強いとか。まぁそこは、二人の自称だから怪しい所だが。

 しかしシグダール、皇帝の名を冠しているとか絶対名前負けしてるだろ。変態皇帝?

 まぁそれは置いておこう。半骸骨(ハーフスケルトン)か……妥当と言えば妥当なところか。ただ、骸骨――というか骨化したのは左腕のみだから1/4(クォーター)骸骨(スケルトン)のほうが近くないか? いや、何かネーミングが微妙だ。やっぱ半骸骨(ハーフスケルトン)でいいか……。ちなみにこの半骸骨(ハーフスケルトン)は数もそう多くない珍しい種らしい。


「そうじゃ! 坊主は肉体がほとんど損傷無いから……“きれいな死体”というのはどうじゃ?」


 は?


「まてジジイ! 何が“きれいな死体”だ! 俺の基が汚いって言いたいのか!」

「なるほど、“きれいな死体”か……羨ましい。儂も元の凛々しい肉体のままで居たかったものだ」

「良隆さん! 何かそれ、嫌味にしか聞こえねぇよ! 俺はどうせ死体になるなら、清々しく骸骨になった方がマシだと思う!」


 しみじみと、骨と申し訳程度の内臓器官の残る己を見、呟く良隆。いや、確かに元人間としては元の身体が恋しいだろうけどさ? 今は俺への嫌味にしか聞こえませんでしたよ?

 忍び笑いが見えるので、もう確定だろう。


 気づいたらその場は和み、数刻前の出来事もなかったかのような雰囲気になっていた。

 正直ありがたい話だ。ここまでの鬱なことをしばし――ほんの少しでも頭の表面から消えてくれるから……。

 いまだ行方不明の三人のことは当然心配だ。今すぐにでも探しに行きたいほどに。が、それは無茶をするだけだ。数刻前にそれでまた虫に襲われたことを考えると、もう探しには出られない。大切な友人達だが、後は彼らの運に頼るしかない。

 薄情に思うだろう。実際探しに出ずとも、彼らのことを少しでも忘れてしまおうと考えるなど薄情以外の何物でもない。

 だけど、今はそれでいい。せっかく助かった命は無駄にできない。もう死にたくない。

 情けないことに、いまだに死を恐れている自分がいる。それは友情と言うものを上回ってしまっている。そこから生まれる罪悪感。

 それから逃れるために、忘れていたかった……。


「名前の方はもういいから、次を頼む」


 が、いい加減その話題からは離れたかった。

 話が前に進まず立ち往生している。このままではその場に座り込んでしまいそうだ。

 次はこの世界のことを知りたい。そもそも聞きたいことのトップに上がる話題だ。現状理解に必要不可欠な情報だ。

 良隆の注いだ替えの茶を啜り、シグダールは話し始める。


「この世界は、お主たちの世界とは全く別。魔物たちの蔓延する世界じゃ」


 まぁそちらのことは良隆に聞いたことしか知らんがな、と付け足す。

 魔物たち。外にいた化け物の虫たちのことだろう。いや、シグダールや良隆、そして俺も今では魔物に分類できる。

 魔物たちだらけの世界――言うならば“魔界”が相応しい、か。


「主要な種族はスライム、獣人、悪魔、竜、そしてワシたち死霊じゃ。これらは共通の言語を持ちそれぞれがナワバリ――国を持っておる。その他にも種族はおるが、ほとんど低能な生物たちじゃな。あ、魔虫(バグ)たちは、数は多いが知能が低いものがほとんどじゃな」

「虫や植物は我らで言う“動物”というところだ。家畜としての活用もされているからな」


 いささか狂暴すぎるが、と呟きが追加される。実際、森で遭遇した魔虫たちは明らかに強大な力を有していた。あれらを家畜にしようなど考えられない。飼いならす前に胃の中に納まってしまうがオチだろう。

 その後の良隆の補足もあり、魔物たちの力関係はなんとなく解った。先ほどシグダールが挙げた五つの種族が元の世界で言う“人間”のような存在に当たる。要は支配者と言ったところ。

 また、獣人には進化せずそのままの姿で生活を続けた“魔獣族”も存在するらしい。が、その総数は少なく伝説的な存在にもなりつつあるとか。獣人が一時的に魔獣と同じ姿に変化することもあるらしいが。

 後、この世界にも人間は存在するらしいのだが……。


「最も地位の低い生物は“人間”じゃ」


 500年前、この世界の支配権をめぐって魔物と戦い、敗北したらしい。現在では元々この世界に住んでいた人間も、その大半が各地で奴隷同然の生活を強いられている。

 俺達の様に異世界からこちらにやって来た人間も、その扱いは変わらないようだ。大半の異世界人は現地人との区別なく、発見されれば奴隷――もしくは、魔虫(バグ)たちの餌となる運命だ。


「……そうか。じゃあ人間はほとんどいないのか?」


 俺の問いに良隆が黙って頷き、肯定する。彼も元は人間であり複雑な心境と言ったところか。

 だが、俺達はまだいい。俺も良隆も死霊となり生を得た。魔物になったことで人間たちの運命からは逃れた。

 だが、立夏は……


 彼女はまだ12歳。だが奴隷がどういった物か、それぐらいは知識としてなんとなく知っているだろう。

 知識として学び、そんな現実に出会う事がなくてよかったとか、他人事のようにその歴史を学んでいたかもしれない。

 俺も――誰だって無意識のうちに感じていただろう。所詮過去のことで、今の自分には起こりえないと。事実、歴史上でそれが在ったという現実は記されているが、自分たちの周囲でその現実を見たことはない。

 まさか、それが今の自分にそれが振り掛かるかもしれないとは、考えたくもない事だ。

 そんな目に遭わないためには、元の世界に帰るしかないのだろう。なら、早いとここんな世界からおさらばしないと大変ってわけだな。


「……ちなみに元の世界に帰る方法って分かります?」


 ダメもとで聞いてみる。


「すまんな。拙者もこちらに来てからの400年、あちこちを調べ尽くしたが全く分からん」


 やっぱりか。

 良隆さんは俺達と同じ世界から来たという。ならば、帰還についてもいろいろ調査しているだろうと思っていた。

 と同時にその方法は分からないままでは? とも考えていた。分かっていたなら、そもそもここにいないだろう。


「完全に魔物となった拙者では試せなかったこともいくつかあるが、結局帰還方法についてはさっぱりだった」


 おや? この口ぶりからすると、人間のままなら戻れるかもしれないと、そういう事か? ならば多少の希望は残っていると言える。これは良い話を聞けた。


「まぁどちらにせよ、小僧も多少なりとも魔虫(バグ)との戦闘に慣れておかんとまた死ぬのみじゃぞ」

「そりゃそうだけどさ……俺かなり体弱いよ。さっきは火事場の馬鹿力的なので何とかなったけど……」


 いくら魔物になり、己の力が図れなくなったと言っても、俺の場合は元が貧弱過ぎる。ほとんど病院のベッドの主として過ごす生活だったので、体はろくに鍛えてもいない。

 年下の立夏よりも体力は下回っている、確実に。


「そんなことはない! 人間の成長に遅い早いなどない! 今から鍛え直し、立派な武士に鍛えてやろうではないか!」


 ……なんか、目がマジになってるよ。良隆さんって、ひょっとしてスパルタ気質?

 しかも特訓って……、俺としては出来るだけ早く元の世界に帰る方法を探して危険な世界からおさらばしたいのだが。もちろん俺だけでなく立夏の安全や、凱たちとの合流も含めた上での帰還だ。周りの皆を見捨てるような馬鹿者ではないよ、俺は。

 だが、前述したとおりこの世界は今の俺達にとってかなり危険。同じ魔物になったからと言って、今すぐ出て行っても死ぬのがオチ。時間はかけたくないが、この世界に体を慣らし、安全に――安全ってありそうにないが――帰還の手段を探すために、強さが必要だろう。

 そのためには……


「…………しばらく、よろしくお願いします」


 ここで力と知識を身に付け、そののち世界を探る。それが……結論だった。


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