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半人半骨 病弱少年は半骸骨となり  作者: 砂鴉
第1章:惨劇が告げる始まりの物語
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第5話:始動

 ――ああ、死ぬのって案外軽いもんだな。それに、魂ってのも本当に在ったんだ……。


 意識は俺の身体の上空にあった。自分の身体を見下ろすってのは不思議な感覚だな。笑っちまうくらい無様な己の死体を眺める自分。実に滑稽だ。

 ずっと恐れてきた死後。実に穏やかなものと思う。


 真っ暗な空間に放り出され、独りぼっちになるのか。

 天国とか地獄とか、そういうものが実在して気づいたら閻魔大王とやらの前でどちらに行くかの判決を聞かされるのか。

 気づいたら、これまでのことをきれいさっぱり忘れて“来世”に生まれ変わっているのか。


 いろんな想像をした。生物は――俺は死んだらその後、俺という存在の意識はどうなるのだろうか……と。そのたびに自分の想像に恐怖した。自分にとって都合の良くない想像ばかりしてしまうから。


 一人何も見えない空間で、いつ終わるとも知れない時間を過ごすことが。

 “天国と地獄”どちらに行くかを勝手に決められ、あるかも分からない世界に飛ばされて、困惑のまま一人になる事が。

 何も残せないまま“現世”という世界に別れを告げ、全く何もわからない“来世”という場所に一人さみしく放り出されることが。

 どれも嫌だ。だから、死にたくなかった。もっと生きていたかった。“死”なんていらなかった。


 だけど、今はただ……穏やかな気持ちで死した己の――“日景志道”の身体を眺めている。そのまま何も起きない。周囲は真っ暗な世界でもなければ、逆に真っ白でもない。見知らぬところでもなく、ついさっき死ぬ直前まで自分がいた怪しく暗い森の中。違うとすれば……日が落ちたくらいだろうか……。

 俺はただ不思議な浮遊感と共に、俺の身体を上空から眺めているだけに過ぎない。


 ……なんだコレ。何もできないのか? ひょっとして、まだ成仏できてないから肉体の周辺に魂の存在として留まっているとか? あるいは亡霊か何かか? 地縛霊か?


 何を考えたところで結局何もできない。ひとまず己の身体を眺める。幸いにも視覚とか聴覚とかは、この状態でも機能するようだ。

 俺の身体。左腕が切り離されそこから己の血が湧水のように溢れてくる。それは周囲の草を赤く染め上げ、血だまりと化していく。魂となった筈なのに左腕があったと思われる位置がひどく痛む。感傷ということか……。

 それを顧み、改めて実感する。俺が“死んだ”という事実を。


 そんな俺の死体に立夏が縋り寄ってくる。うまく動けないのか這うように、だ。必死に縋りつき俺の死体を揺する。当然だが俺の身体はピクリとも反応を示さない。

 当然だ。それはすでに死んだ男の肉体。俺の意識はすでにそこから離れてしまっている。


 ――……立夏……それじゃ俺が体張った意味ないだろ。……どうにか生き延びてくれよ……この妙な黒い炎があるうちにさ。


 声は発せられない。いや、発せられたとしても届きはしないだろう。俺は死んだのだから。生きている者に声を伝えることなど出来よう筈がない。今はそれがもどかしい。早く逃げろと、何とか伝えないと。

 カマキリは炎が苦手なのか近寄ってこない。そういえばあの骸骨も蟷螂は炎が苦手だと言ってたな。なら今がチャンスだ。この化け物から逃げ切る最後のチャンス。だが無情にも炎は少しずつ消えかかっていた。


 ――……ヤバくね? これ。


 炎の弱まったところを選び少しずつカマキリが迫る。獲物を狩る意志は治まっていない。黒い炎は最初ほどではないにしろ、いまだ燃え盛っている。だが少しずつ、何かにその勢いを吸い取られるように、炎の勢いは減退していく。


 ――ヤバいじゃん! 立夏、早く逃げろよ! 何で離れないんだよ! ああもうやっぱダメだ! 死んでも意味なかった! 全然納得いかねえよこれじゃあ!


 せめて後悔の無いように……そう覚悟を決め、死への恐怖を無理やりねじ伏せ行動に及んだが、これではまるで意味がない。俺が死ぬことは半ば決定事項だっただろう。それでも何かに役立てられれば……と最後の悪あがきだった。死に急いだとも言うか。


 立夏がこのまま離れなければ、いずれカマキリは立夏の下にたどり着く。そして絶好の獲物を無情にも食い散らすだろう。弱っている生物、抵抗のできない生物は恰好の獲物だ。このままでは、俺の努力もむなしく立夏は死ぬ。確実に

 こんなことでは浮かばれない。俺が化け物として化けて出てしまいたいくらいに浮かばれない。


 ――ああもう、何とか体に戻れたりしないか? これじゃホント納得いかねえよ!


『戻りたいか?』


 突如声が響く。やけに生意気そうな声が、俺の頭に響くように聴覚を刺激した……気がする。今、だれか何か言ったか?


『今なら、俺が手を貸してやれる。人間じゃぁなくなるが、新たな生を掴めるぜ? 俺に賭けないか?』


 気のせいではない? 何だ? どこから聞こえてくるんだ? 俺は今魂。それに語りかけてくる存在……?

 そもそもコイツは何を言ってるんだ? 人間ではなくなるとかなんとか……。魂だけの状態である今も確実に人間とは呼べないだろう。“お化け”とか“幽霊”とか言われそうな状態……霊魂?

 いや、それはひとまず置いておく。問題はコイツが言う“新たな生”という言葉。要は生まれ変わりのことを言っているのだろうか。想像してた“来世”ということか?

 しかし、それはあまりにも胡散臭い。蘇りなどありえない……と思う。第一、存在すら分からないような妙な相手に魂――俺自身――を賭けて大丈夫なのだろうか……。


『時間はないぜ。どっちだ?』


 カマキリはいよいよ黒い炎を突破し立夏に迫っていた。このままでは立夏が。

 それを見た時、打算とか謎の存在の正体とか、そういったものはすべて消し飛んだ。どうせさっき死んだのだ。この先何が起こるか分からない以上、全てを謎の存在に賭けてみるのも一興……というかもうそれしか手がない!

 決めた! この何かに賭ける!


 ――ああ! もういい! 何か分からんが誰でもいい! 俺を生き返らせろっ!


『……いいぜ。その望み、叶えてやる!』


 にやりと胡散臭い笑みのイメージが魂の中を巡り、声は止んだ。

 そのイメージにふと疑問を覚える。こいつ顔も名前もどこの誰かも全く思い出せない。だけど、なんとなく知っている気がする。それはもう、以前からずっと……そんな気がした。


 俺は自分の身体に戻ろうと必死にもがく。宙に浮いた体を必死に動かし平泳ぎ、必死に俺の身体をめざし手足――あるのか?――を動かす。謎の声に賭けてみたものの、本当に頼りになるか半信半疑。出来ることはあがいてみるべきだ。俺の身体は周囲の黒い炎が弱まるたびに、少しずつ黒いオーラのようなものに包まれていく。

 そんなことにはお構いなしに、どうにか戻ろうとするが……一向に戻れそうな気がしない。


 ――何だよ! あいつやっぱり何にもしてねぇ! 散々悩ませて、結局からかっただけか!?


 居もしない存在に賭けた俺が馬鹿だった。そう呆れそうになったが――


 ――あれ? なんかおかしくね?


 なぜあんな黒いオーラを放っているんだ、俺の身体は? しかもあっという間に真っ黒になってくぞ?

 気付くのが少し遅かった。志道の身体の心臓のあたりから細い糸が飛び出し、俺――の魂――を捕える。


 ――えっ!?


 一瞬何が起こったか分からない。だが、その糸はすさまじい力と勢いで俺の魂を、身体へ引きずり込んでいく。


「なんだこれええええええええええ!!!!!!!!!!!!?」


 初めてまともに声が出た気がする。魂だけでも、声って出るんだな。のんきな思考が一瞬頭を過り、俺の魂は身体に吸い込まれていった。




 視界がまばゆい光に包まれた。




***




 まばゆい光が収まり、意識が戻ってきたと思ったら、カマキリが両腕を振り下ろしてきた。

 っていきなりかよ! 二度もやられたかねぇって!!

 とっさに軽く――普段よりずっと軽く動かせた左腕で受け止めようとする。無駄なのは分かってる。さっき切り落とされたのだから同じことをしても無駄だと。ただとっさに防御行動に出ただけだ。

 左腕は予想よりもずっと素早く動いた。羽のような軽さの腕に、少々驚きつつ眼前にかざす。振り下ろされる鎌を掴むため掌を広げ……。


 ――って骨じゃんこれ!! こんなんで受けられるか!!


 かざした左腕は骨だ。真っ黒に黒ずんでいるが、頼りないその腕は間違いなくただの骨。これではあの剛腕――鎌――を受け止めることなどできない。さっきは筋肉もろとも骨まですっぱり切り落とされたのだ。間違いなく再びポッキリ無くなってしまう。

 生前の記憶は残っていた。骨が、腕が切り離された瞬間のすさまじい激痛を。よく叫ばなかったものだ。だが、それは今関係ない。再度あの激痛を味わうことに恐怖し――。


 返ってきたのはすさまじい衝撃。自分の三倍はあろうかという巨大カマキリの一撃を腕一つで受け止めたのだから当然だ。最初に刃が激突した掌から腕、そして全身に伝わる衝撃が身体を震わせる。


 だが、それだけだった。


「…………どういうことだよ。……これは」


 カマキリの腕を受け止め、掴みながら立ち上がる。身体は思ったより素直に動いた。先ほどの衝撃の影響などほとんど感じない。


 カマキリは腕を戻し姿勢を低くし、首を傾げこちらの様子を窺っている。今まで逃げるだけで何もしてこなかった獲物が防御態勢を取った。それだけならいい。問題は完全に凌ぎ切ったことだ。

 何かおかしいと本能が告げている……のだろうか。


 だが、それ以前におかしいのは俺自身だった。

 まず、俺は死んだはずだ。ついさっき、心臓病で、間違いなく。……ならばどうして俺は、ここに立つことが出来たのか。

 あの誰かは、きちんと言ったことを果たしてくれたのか……。どこの誰かは知らないがひとまず感謝しておく。


「ギシャアァァ!」


 初めてカマキリが声を上げ鎌を突き込んでくる。先ほどはとっさで何とかなったが、二度目はない。僅かに放心していたこともあり、完全に隙を付かれた。……が、


「ぬおおおおおおお!!!!」


 横合いから飛び込んできた何かに、その鎌を半ばから切りとばされた。


「どうにか間に合ったな」


 振り返ったその人物は、あの骸骨の男だ。右手に刀を持ち、化け物カマキリに対して構える。


「すまぬな。拙者が骸骨だったことをすっかり忘れていた。何しろ、人間と呼べる人間に会うのは百年ぶりだからな」


 自分が骸骨だったのを忘れたって……。

 自分のことくらい把握しろよと呆れが顔に出るが、今はそれを口に出している状況ではない。最初に会ったときの様子を含めると、少なくともこの骸骨は味方、なのだろう。

 骸骨が味方するとはおかしな話だ。だが、現状一番おかしいのは自分自身という自覚があった。

 だから、今は受け入れる。立夏は何が起こったか分からずへたり込んだまま。

 当然だな。当事者すら何が起こったかさっぱりだ。ひとまず蘇りが成功したというのは分かったが……。立夏にも説明して自分を納得させたいところだけど、今それに構う余裕はない。


「……おぬし。刀を使えるか?」

「使ったことあるか! でも、見様見真似でやるぐらいなら――」

「むぅ……それでいい。儂の刀を貸してやろう」


 骸骨が佩いていたもう一本の刀を鞘ごと投げ渡す。慌ててそれを受け止め、慌てながらも抜刀し、両手で持つ。


「うわ……」


 想像よりずっと重い。だが刀は案外重いものと聞いたことがある。ならこれが普通なんだろうな。

 だがおかしい。右手と左手に伝わる重量がまるで違う。右手には想像よりも重い、受け取った時と同じだ。

 だが、左手の方はまるで重さを感じない。左手は骨だから、そもそも力が入らないはずだ。だが、左手だけでも持てそうな、そんな気持ちになる。

 しかし、俺は右利きなので左手で振るうのはこの土壇場でも不可能だろう。左手で箸を使ったことすらないのだから。やみくもに振り回したところでこの化け物を撃退できそうにない。


「来るぞ!!」


 骸骨が鋭く注意を飛ばす。直後カマキリが腕を振るう。片腕が切り落とされているが、全く影響を感じない。痛みを感じてないのか、と思うほどだ。

 声も上げずとっさに伏せる。頭上を斜めに鋭い鎌が通り過ぎ、真横の地面に突き立つ。風圧が頭髪をなで、背筋を冷やす。


「おおおおおおおお!!!!!!!!!」


 同じく一撃を躱した骸骨がカマキリに向かって駆け出し飛び上がる。およそ人間には不可能な高さに飛び上がり、泳いだ片腕に向かって大上段から刀を振り下ろす。


 斬れた。何度となく志道たちを襲ってきた鎌がバッサリと。


「なんだよ、あの骸骨。どうやったらあそこまで跳べんだよ……」


 一瞬にしてカマキリに向かって攻撃を加えた骸骨に見とれる。思わず動きが止まってしまった。

 それは一瞬だ。しかし、状況はその一瞬で動いた。


「うそだろっ!」


 両腕を失くしたカマキリは、巨体を使った体当たりに出た。骸骨は危険と判断したのか、何もしてこない俺に向かって。今から動けばどうにか逃げきれる……か。

 逃げる? いや、だめだ! 背後にはしゃがみこんだまま、状況を整理出来ていない立夏が居る。

 カマキリが四肢を操り迫ってくる。速さはそれほどでもないがその巨体による圧迫感がすさまじい。

 だが背後には立夏が居るのだ。昔からの友達が。そもそも俺が今生き帰ろうとしたのはなぜか。前々から死にたくないとは思ってたが、今この時はそんな安っぽい願望のためじゃない。あいつを、立夏を死なせたくなくて生き返ることを望んだ。

 久しぶりで、まだ見せてくれたないけど強引なところのある少女。そして、死んでいった友に託された少女。


「逃げるなんてできねぇか!」


 病人なのになんでこんな無茶やることになったのか。

 迫ってくるカマキリに対し水平に刀を構える。しばらく、外に出ていなかった距離感とが掴み辛い。頼れるのは幼いころに凱や蓮たちと遊んだ時の記憶だけだ。

 視界に迫ってくるカマキリに対し、一ミリも目をそらさず距離を測る。身体が必死で躱そうとするのを気力で抑える。避けてしまえば後ろにいる立夏が轢き殺される。そのためにも、絶対に動かない。


 目算距離五メートル――まだだ。

 目算距離三メートル――まだ……

 目算距離二メートル……来た!


 その瞬間構えた刀を突きだす。軟弱な身体に残る力を出来る限りかき集めた一撃。それは、目測した位置を超えてカマキリの胸部へと突き刺さる。だが


 ――しまった!


 己の失敗を悟る。あまりの恐怖と緊張にわずかに早く身体を動かした。刀は最大まで力が乗った状態をすぎたところでカマキリに激突する。


 すさまじい衝撃と力が襲いかかる。一瞬にして吹き飛ばされそうな勢いだが、両足に力を籠め、必死に踏みとどまる。刀は深々とカマキリの胸部に突き刺さっているがその力は全く衰えない。むしろ強まっている。それほど獲物への執着が強いのか。


「ぐ……こんの……やろぉ……」


 必死に刀に力を入れ抑え込む。だが、限界も近い。少しずつ、地面を削りながら、押しのけられていく。


「……志道! しっかり!」


 背後で座り込んでいた立夏が背中から押してくれる。何とか立ち直ったようで安心だ。それに、その行動がとてもありがたい。と同時に、己のなすべきことを自覚し直す。

 さらに気持ちを――明確な意思を込めて刀に力を注ぐ。それを受けてか刀身が燃えるように赤く染まりだす。……それは染まっただけではなかった。


「――!?」


 刀身から炎が――煉獄の炎が炸裂し、カマキリに刺し込まれた刀身が内からカマキリを焼き尽くす。


「ギシャァァァァァァァァァァ!!!!!?」


 カマキリから悲鳴が響き渡り、大きくのけ反る。その勢いで志道と立夏はそろってしりもちをつき倒れるが、視線は上方に、のけ反るカマキリに向かう。


「そこだ!」


 いつの間に腹の下に潜り込んでいた骸骨が燃えるカマキリに向かい、青い炎に包まれた刀を頭上で一閃する。

 カマキリは腹部を真っ二つに切り裂かれた。裂かれた部分から体液が噴き出てくるが、その全てが骸骨の刀から噴出する青の炎により蒸発していく。そして、地響きを立ててカマキリは地に伏す。そのまま、動き出すことはない。


「うむ。なかなか熱い戦いであった」


 骸骨の男は一息つくと、額の汗をぬぐうよう手を動かし、一つ息を吐いた。




 俺は呆然と己の左手を、そして右手に持った刀を見つめる。

 左手は真っ黒に黒ずんでいる。それ以外に特に変化はないようだが、明らかに俺は今までと違っていた。さっきの戦闘行為だって、今までの虚弱で病弱な俺に出来よう筈もない。それに刀から噴き出した炎。骸骨も同じことをしていたので刀に備わった力か何かとも思うが、色が大違いだ。

 俺が出したのは赤い炎で、骸骨は青い炎。つまり、この炎は俺が出したという事。


『人間じゃあなくなるが、新たな生を掴めるぜ?』


 俺に生き返る道を示した声が言ってたことだ。人間ではなくなる。その答えが、ここにあった。俺はもう、人間じゃなくなったのだろう。今はほとんど人間と大差ない見た目だが、いずれは変わり果てるのだろうか。

 腕が骸骨状態だから、きっとそこにいる骸骨男みたいになるんだろうな。


 もう、皆と一緒じゃないのかな。空しい、さみしい思いが俺の心中を揺すった。きっと、こんな化け物みたいな奴を、皆は相手にしてくれない。

 これから、見失った友達を探しに行こうと思うが、皆はどう言うだろうか。化け物と罵られるか。それとも逃げられるか。どっちにしろ、もう皆とは居られない。

 変えられない運命に逆らって手にした新たな自分。それを手にした代償は、皆と別れること、たった一人になる事、か。

 きっとそうだ。俺はそう判断し、皆を探しに行く。

 そう言えば、立夏はどうしよう。不気味で嫌だろうけど、皆と合流するまで一緒に居てもらうしかないか。


「立夏、その――!?」


 立夏は振り返った俺に飛び込むように抱き着いてきた。何でそうなったのか、俺にはさっぱりだった。何でこんな気持ち悪い奴に……


「良かった、よかったよぉ、しどうぅぅぅ……」


 俺が死んだ時とは違った意味で泣き崩れる立夏。


「なんだよ、俺今さっきの奴等みたいに化け物同然なんだぞ。それなのに……」

「そんなの関係ない!! ……死んじゃったって、私一人になっちゃったって……でも志道が生きててくれて……」


 その後は言葉にならなかった。そうだ、今この場に見知った中は俺と立夏の二人だけ。俺は幼いころから病室を抜け出しては蓮と立夏兄妹の下に遊びに走っていた。幼なじみも同然の間柄。それが、大好きだった兄も死に、そして俺もいなくなり、立夏は絶望の淵だったんだ。


「悪い、心配かけたよな。でも俺、どうせもうすぐ死ぬはずだったし」


 軽く冗談めいてそんなことも口にするが、結局もう何も言わず、ただただ立夏が泣き止むように優しく背中を叩き続けた。


 少し離れた所で骸骨男は孫でも見るような眼で、その風貌に似合わない優しい目つきでこちらを見つめていた


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