聖女の願い
「♪~! えっ、女神さんから着信って……? あっ、写真をもらった時にナンバー交換したんだった!」
輝姫さまが呟いて、指先で呪文を描きました。
「こんばんわ!」
「女神さん? いったい何がどうなってるの!?」
「あんまり気に病んじゃだめよ。せっかく転生したのに」
「そんな……転生って……? だって、何も分からないし、何もできないし、これからどうすればいいのかも全然――グゥゥウゥ~」
輝姫さまのお腹がかわいらしく鳴りました。そういえば、三日三晩寝たきりだったから、まだ何も食べていらっしゃらないのです。
「食欲があるなら大丈夫なんじゃない?」
「ううっ、本物の女神さんなら、ケーキのひとつくらいごちそうしてくれたらどうッ!?」
信じられないことに、御神託を受けている聖女輝姫さまが、女神さまに噛みついていました。
それにしても、女神さまへの願掛けがお夜食にケーキを食べたいだなんてっ!?
「でも、無事に生きているんだから感謝されるべきだと思うんだけどなぁ」
「た、たしかに、異世界というだけで、流れ星に直撃されたはずなのに生きているのよね……」
「そうそう、悩むよりケーキでも食べて、第二、第三の人生を楽しんだほうがいいよ!」
「アカリは……、まず、自分探しをしないといけないと思うんだ……。でもその前に、やっぱりケーキを一口食べてから――」
よほど大好物のようで、輝姫さまはケーキに執着しておられました。しばらくの間、女神さまとお話されて落ち着かれたのか、輝姫さまはベッドで横になられるとすぐ静かに寝息を立て始めていました。
そっと、メイがベッドをのぞき込むと、輝姫さまは、まだあどけなさが残る少女の寝顔でした。こんな少女が女神さまと対話ができるなんて……。メイには与り知らぬことですが、聖女に御神託が下されるというのは本当だったのですね。
今夜、目の前で見せられた信じられないような奇跡の数々……。魔力と記憶を失っても、やはり輝姫さまは聖女のままでした。
でも、輝姫さま、今はアカリさまと名のっていらっしゃるのでしたね、なぜケーキひとつを女神さまに願ったりしたのですか?
そのくらいの願いならば、女神さまの代わりにいくらでもメイが叶えて差し上げます。
おやすみなさい、アカリさま。
※ ※ ※
※ メイドのメイさん視点でした。