深夜の奇跡
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深夜、輝姫さまのお部屋の前を通ると、ランプの明かりがついていました。
メイドの夜勤当番だったメイが、扉をそっと開けて部屋の中を確認すると、輝姫さまはベッドに横になりながらも、メタルプレートの上に指先を滑らせて、なにやら魔法陣を描いていました。
国主さまのお話によると、輝姫さまは以前の記憶と魔力をすべて失われてしまったそうです。しかし、輝姫さまが首を傾けて指先をスッと動かすだけで、どこからともなく音楽が奏で出したのです。これが魔法でなくて一体なんなのでしょうか……。
輝姫さまは、音楽に合わせて歌われているようでした。
メイは、エキゾチックな音楽と歌声に引き寄せられるようにフラフラと輝姫さまの部屋に入ると、そっとのぞき込んでいました。
メタルプレートは妖しげに輝き、この世のものでない幻、文字や記号が浮かんでは消えていました。
……ついに、魔法使いの魔導書をかいま見てしまいました。まさか、呪文の文字までが生きているかのように動き出し流れていたなんて!
あっけにとられていると、輝姫さまの嘆き声が聞こえてきました。
「ああ、やっぱり全然ダメよ。どこにもつながらない……。だれか助けて……」
信じられないことに、かつて勇者スバルさまと一緒に国を救おうと立ち上がった聖女輝姫さまが、打ちひしがれて弱音を吐いておられたのです!
たぶん、音楽を奏でたり、メタルプレートに幻を映し出すようなことは、輝姫さまにとっては魔法と呼べるようなものではないのかもしれません。やはり国主さまのおっしゃった通り、輝姫さまは魔力を失われて、その上、記憶喪失まで……。
それが分かって、目覚められてすぐの、あの取り乱しようだったのですね。輝姫さまが“(魔力と記憶を)返して!”と喚かれたのもごもっともなことです。
国を救うために、十五年もかけて冥界を抜けてこの世に戻って来たのに、すべてを失ってしまっていたなんて、なんという過酷な運命なのでしょう。
すると突然、違う音楽が割り込むように鳴り響き、メタルプレートがリズムに合わせて振動しだしたのです!
※ メイドのメイさんからの視点です。