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転生ガール  作者: 烏賊 宙
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優男に3D

「――我々騎士団としては、すぐさま妖魔(ようま)の追討に向かいますゆえ、蜘蛛女(くもおんな)なるものの風貌を詳しくお聞かせ願いませんかな」


 剣術の試合ができそうなほど広い応接室にあるゆったりとした豪華なソファーに腰掛けて、フォアマー騎士隊長が言った。


「そのような危ない真似はお止めください。輝姫(キラリ)は、騎士たちの命の方が大切です」

「お優しいお言葉ですが御心配には及びません。日々の厳しい鍛錬はこの時のためでございます!」

「……当てにして、いいのかしら?」


 輝姫(キラリ)の黒曜石の瞳が、じっとフォアマーを鋭く見詰めた。

 そこまで言うのならば、騎士団を投入して、返り討ちに合わずに蜘蛛女を倒せる確信があるのかどうかを見極めたくなった。


「ハッハッハッ! 伝統ある騎士団の勇猛果敢さは、敵に忍び込まれても気付かずに寝ていた警備隊などの図太さとは意味が違いますぞ! ましてや、外壁の外でパトロールと称して物乞い同然に徘徊してはスクラップを集めている自称・勇者隊などは、妖魔と通じて手引きをしているやも知れません!」

「……きっと、勇者隊副官のミーシャは、巨大甲虫型モンスターの対策でそれどころではないのですよ。それに、意外なものに救われたりするのです……」


 輝姫(キラリ)は首を振った。

 蜘蛛女の挙動は人間の予想などはるかに超えていたから、どの防衛線をいつ突破されようと、その担当部署に特に落ち度があったわけではないであろうことは想像できた。


「聞くところによると、勇者スバル殿はとっくに戦線から離脱したとか。さすがに、先の大戦では活躍されただけあって逃げ足だけは衰えませんな。その場に私がいましたら、輝姫(キラリ)さまをお助けすることもできたのですが――」

「確かに、スバルが戦線を離れてしまったことに関しては、輝姫(キラリ)も反省すべきところが多々あります……」


 アカリは渋い表情で輝姫(キラリ)としてフォアマー騎士隊長と応対しながら疑心暗鬼になっていた。

 人を見かけだけで判断するのはどうかと思ったが、どう贔屓目(ひいきめ)に見ても鍛錬を積んだ剣や武術の達人には見えなかったのだ。


 ――それとも攻撃魔法に長けているの? 魔法騎士であるならば、その自信も頷けるんだけど……。


 どちらかというと、フォアマーと正面から向き合っていると、つい、ブティックのショーウィンドウにあった騎士服を着飾らせ立っているマネキンを思い出してしまうのだ。

 実際の騎士団の実力のことなど日本にいたアカリに分かりはしないので、隣で控えているメイさんにそっと聞こうと横目で見る。すると、ポ~と頬を赤く染めてうっとりしたまなざしを向けてフォアマーの話に酔いしれているようだった。


 ――もうっ、確かにイケメンかもしれないけれど、騎士のくせに色白で日焼けもろくにしていないんだから、ちょっとは都合のいい話には疑問を持ちなさいよ!

 メイさんがこんな調子じゃあ、後で聞いても騎士団の正確な情報を得ることは難しいわね。

 こうなれば自分で試すしかないか……。


 ふうっと溜息をつくと、輝姫(キラリ)はシルバーのロングヘアをかき上げるようにして窓に視線を向けた。


「メイさん、部屋の中に外からの光が差し込まないように、遮光カーテンを全部閉めてくれるかしら」

「は? ――ハイ、かしこまりました」


 輝姫(キラリ)が程よい形の胸を揺らしてスマホを振袖から取り出すと、すぐにメイさんは意図を察知したのかテキパキと応接室のカーテンを全部閉めて部屋を暗くしてくれた。

 スマホのパネルの青白い光が輝姫(キラリ)を照らすと、シルバーロングの髪が銀河の瞬きのように輝いた。


「――輝姫(キラリ)さま、そう恥ずかしがらないで。若い時の一時の気の迷いなど誰にでもありましょう。そろそろ、スバル殿のことなど忘れてしまってはいかがですかな。もっとふさわしい男は、意外と近くにいるものですぞ」


 何をカン違いしたのか、魅了されたようにフォアマー騎士隊長は、輝姫(キラリ)を口説き始めた。甘い笑みを浮かべながら、だんだんと顔を寄せてきた。


「あぁ、フォアマー、その前に蜘蛛女について詳しく説明しておかなければいけませんわ……」


 可愛らしい唇をニヤリと歪めると、輝姫(キラリ)はスマホに記録してあった昨夜の蜘蛛女の動画をタップして再生し、映画のように3Dで映るように投影した。


 ――いきなりで悪いけれど、3Dシミュレーションのアプリで貴方の実力を試させてもらうわね。騎士を無駄死にさせるわけにはいかないから――


 突如、カーテンスクリーンから抜け出るように、昨夜の蜘蛛女の立体映像が始まった。


 バンッバッ、バンッ――! と勢いよく窓が開き、不気味な蜘蛛女が現れると糸を張り部屋の中に侵入してきたのだ。

 蝋人形のような生気のない人体部分の顔が向くと、ともし火のような赤い目がフォアマーを捉えた。




 ――お屋敷の廊下を全力で駆け抜けていく男がいた。

 (きら)びやかな騎士服に身を包み痩せ形で長身、本来は甘いマスクをしていたはずだが、今は、金髪を振り乱し恐怖に引きつった必死の形相を浮かべていた。

 ――当たり前だが、武術の鍛錬の為に走っているわけではない。

 フォアマー騎士隊長は、輝姫(キラリ)さまと面会していたはずだが、まるで応接室の扉をぶち破るかのような勢いで、命からがら逃げ出してきたのだ。

 騎士がお姫さまを置き去りにして一目散に逃げ出す姿など、なかなか見られるものではない。

 それも、新米の見習い騎士などではなく宣誓した騎士隊長ともあろう者が、恥も外聞もなく奇声を発しながら敵前逃亡したのだった。

 

「よ、妖魔(ようま)が、で、で、出たんだ!! だれか助けてくれぇー、喰われちまうっ!! くっ、蜘蛛女(くもおんな)が、いきなり窓から飛びかかってきたぁあああぁー!!」


「いったい何があったのかしら?」

「フォアマー騎士隊長が、輝姫(キラリ)さまの応接室から飛び出して行ったわ!」

「妖魔ですって? 守るべき騎士が逃げたりしたら、輝姫(キラリ)さまはどうなってしまうの!?」


 廊下ですれ違ったエレナ、アメリア、モカロの三人はもちろんのこと、待合室で面会の順番待ちをしていたお屋敷の関係者や来客たちは、皆、情けない声を上げながら逃げ惑うフォアマー騎士隊長の奇行を目のあたりにしてしまった。


「もしも、蜘蛛女に輝姫(キラリ)さまが襲われたのだとしたら――」


 モカロがゆっくりと言うと、


「見捨てて逃げ出した騎士隊長の根性なしを、ぶっ飛ばしてやるんだから!」


 アメリアがきっぱりと言い切った。


「既に騎士は逃げ(おお)せましたけど、今、妖魔が輝姫(キラリ)さまのお部屋の中にまだいるんでしょうか?」


 秘書制服少女のエレナが言うと、三人は顔を見合わせた。


「そうよ、エレナちゃんの言う通り、フォアマー騎士隊長だけがひとりで逃げ出したのだから、応接室には輝姫(キラリ)さまとメイが取り残されているわ! それとたぶん、妖魔の蜘蛛女がいるわね……」


 モカロが肩をすくめて言った。


「何よ、怖気づいたの? 輝姫(キラリ)さまのことが心配じゃないの? 早く助けに行きましょう!」

「心配に決まってるじゃない! でも、アメリア、こんな時こそ冷静になりなさい。騎士隊長でも(かな)わないのに、メイドの私たちに何ができるっていうのよ!」

「――ちょっと待ってください。昨夜、妖魔を撃退したばかりなのに、朝からすぐにまた現れるものなのでしょうか?」

「それは……、妖魔の都合なんて誰にも分からないけれど……。シークレットサービス兼任のメイが一緒にいるんだから、戦いになればハンドグレネードの一発くらい爆発していてもよさそうなものよね? でも、そんな騒ぎは聞こえてこなかったわ」

「それなら決まりね。私たちで輝姫(キラリ)さまの応接室の様子を見に行きましょうよ!」

「アメリアったら……。まず、エレナちゃんを避難させないと――」


 エレナはモカロの言葉に口をはさんだ。


「いえ、あたしは、輝姫(キラリ)さまから直に蜘蛛女のことについて詳しく聞くためにここに来たんです。だから、一緒に行きますっ!」


 モカロとアメリアは少し躊躇(ためら)ってから頷くと、三人は輝姫(キラリ)たちのいる応接室へと急いで向かった。


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