表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生ガール  作者: 烏賊 宙
45/81

アカリ、男爵に面会する

 御者の少年が巨大馬車の乗降用ドアを開けてくれた。上の客室へと向かうなだらかな階段が続いているのが見える。


「はい、どうぞ!」

「――この馬車って、この間、大通りで白い馬車と事故を起こしそうになってなかった?」

「いや、俺はそんな覚えはないなぁ、安全運転だから。似たような型の馬車なら男爵家に幾つもあるから、それらはどうか分からないけど?」

「同じ型の巨大馬車か……。それもそうね」


 とりあえずアカリは、この少年たちが幅寄せしてきた巨大馬車とは無関係だろうとみなすことにした。潰そうとした馬車に乗って現れなければならないほど、男爵家が馬車に困っているはずはあるまい。


 一番の問題は、実行した家来より命令した男爵なのよ。


 邪魔者は消す。人の命など歯牙にもかけない冷酷非道な男なのだろう。

 アカリは気を引き締めながらドアから階段を上って馬車の中へと入っていった。


 上に着くと、秘書制服の少女が待っていた。

 巨大馬車の内部は幾つかの部屋に分かれているようだった。


「ドュスマン男爵の部屋はこちらです。どうぞ、輝姫(キラリ)さま、ご案内いたします」

「ヘッ? まさか、この馬車に男爵が乗っているというの!?」

「はい、もちろんです。それにしても、輝姫(キラリ)さまにお会いできるとは思いもしませんでした。あたしたち、幸運の女神さまに感謝しています」


 秘書制服の少女がにこやかに微笑んだ。

 

 ――ううっ、ギャングのボスみたいな男爵と会うんだから、こっちは気持ちの整理が必要なのよ。お願いだから、女神さんったら余計な運気を上げないで……。


「こちらが男爵の執務室になります」


 油断のならない男爵を相手にして、どのように話を切り出すかあれこれ考えているうちに、いつの間にか通路を抜けて立派な扉の前にいた。


 ここまで来てしまって今更だけど、相手は家来に、巨大馬車で踏み潰せ、と平気で命ずるような恐ろしい男爵なんだ……。

 きっと、シルクハットを被って葉巻をくわえた小太りの男爵が、人の話も聞かずに威張り腐るに違いないわ!

 やっぱり、いくらミーシャちゃんの頼みでも、そんなのにどやされるなんてまっぴら御免なのよ……。


「失礼いたします。輝姫(キラリ)さまがいらっしゃいました」


 制服秘書がノックしてドアを開け、先導して部屋の中へ入っていく。緊張してアカリもその後に続いた。


 ――クッ、こうなったらどうにでもなれ! 玉砕覚悟(ぎょくさいかくご)で突っ込むだけよ!


 もう二度とこの部屋から生きて出られないかもしれないと覚悟を決めて、ありったけの気力を振り絞った。

 開き直ると、目をカッと見開いて部屋の中を見渡した。


 男爵の執務室は、ここが馬車の中と思えない程上手くまとめられていた。高級な絨毯が敷き詰められ、上質な応接セットと、一角に立派なデスクがあった。


 シックな調度でまとめられた執務室よね。

 見たところ異常はみあたらないわ。


 ――というより、だれもいない……?


 すると、デスクの椅子がスゥーと後ろに下がったと思いきや、机の下からひょっこりと顔をのぞかせた青年がいた。


「フー、どうにかなるかと思ったよ。物凄い殺気と桁違いの魔力の充填(チャージ)があったような気がしたものだからつい――。君は……、本当にミーシャの変装じゃないんだね? いきなり電撃の不意打ちとかしないよね?」

「ちょっ――、ドュスマン男爵!? デスクの下なんかに隠れて、な、何をされているんですかっ! お止めください! 用心するに越したことはありませんが、輝姫(キラリ)さまの面前です。そもそも、あんな凶暴な電気山猫(ミーシャ)と一緒にされたら失礼ですよ。――改めて、こちらが、輝姫(キラリ)さまです」


 恥ずかしそうに顔を赤くした秘書制服の少女が、申し訳なさそうに紹介してくれた。


 あらら……。この前、男爵をやっつけてやるとか言ってたけど、ミーシャちゃんったら何をやらかしたのよ?


「あの、はじめまして、輝姫(キラリ)です。お忙しいところ突然お邪魔したようで申し訳ありません」


 自己紹介すると、とたんに男爵は笑顔になった。

 デスクの下から抜け出て立ち上がる。

 パリッとしたスーツを着ていて、男爵というよりまるでエリートビジネスマンという印象だ。


「無礼で申し訳なかったけれど、よく来てくれたね。僕が男爵家の当主ドュスマンだ。よろしく、輝姫(キラリ)さま」

「――非公式ですので、よろしければ気軽にアカリと呼んでください。ドュスマン男爵」

「そうだったね。では、いらっしゃい、アカリさん。僕のこともドュスマンと呼び捨てで全然かまわないよ」

「はい、こちらこそ、ドュスマンさま。えっと、よく街中で男爵家の大きな馬車を見かけて、すごいなぁって思っていたものですから。アカリも、一度、どんな方か、お会いしてみたかったんです」

「ああ、あれか。あの型式の大型馬車は、城塞都市や衛星都市の間で必要な物資を運んでいるのさ。――で、僕の印象はどう? そっちの方が重要だよな」


 ドュスマン男爵はいたずらっぽい顔をして見せた。


「えっ、そんなこと急に言われても……。でも、いい大人が馬車で隠れん坊(かくれんぼう)しているんですか?」

「いや、これにはいろいろと訳があってね」

「――立ち話もなんですから、お茶が入りましたので、応接ソファーの方でお話になられてはいかがですか」


 秘書制服の少女が、お茶とお菓子の準備をして声をかけた。


「うん、そうだね。アカリさんは、甘いものは好きかい?」

「ええ、大好きです!」

「よし、これで挽回できそうだぞ! 珍しいお菓子がちょうど入荷しているからね」

 

 ドュスマン男爵はガッツポーズをして見せた。

 一見エリートビジネスマンかと思いきや、少年のような気さくな表情を見せる男爵に、ついアカリはクスクスと笑い出してしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ