噂(前)
――快晴で洗濯日和の日だった。
お屋敷メイドのアメリアは、モカロと一緒に馬車でお使いに出掛けていた。
川沿いの堤防の道を真っ直ぐに走り抜けていく。
太陽が川面に映えていた。
軽やかな馬の蹄の音が、カッカッカッカッ――と聞こえる。
本当は、お気に入りの黒いメイド服をきっちりと着こなしたいのだけど、暑さに負けて腕まくりして、襟元も少し開いて着崩してしまっている。
こんな姿をメイド長に見られたら大目玉をくらうことは分かっているけど、暑いんだからしょうがない。
それにどうせ今は誰に見られるわけもなし。
「ねえ、アメリアはお昼どうするの、どっか食べに寄って行く?」
ライトブラウンのショートヘアを風になびかせながらぼんやりと景色を眺めていると、御者代わりに馬を操っているモカロが声をかけてきた。ボブカットでスラリとして背丈もあるから、まるで少年のように見える。
メイドのモカロとは同期で、輝姫さまの担当にも一緒になれたくらいの腐れ縁だ。
特別扱いで専属メイドに抜擢された輝姫さまお気に入りのメイを除けば、お屋敷のメイドの中で、私たちふたりが群を抜いて優秀なのは間違いないのだ。
でも、この前も朝早くから、輝姫さまはメイだけを連れて、ラートハウスに出かけられてしまった。
その後、やっぱりメイだけ特別休暇……。まったくもってうらやましい!
それに比べ、なかなかアメリアにはお声がかからない。もし避けられているとしたら、この前の覗きがバレたのがいけないと思うんだ……。
それというのも、モカロが夜中に、輝姫さまとメイとの関係を確かめに行こうと言い出したのがいけない。
まあ、それに乗ったアメリアも、確かに共犯で悪いんだけど。
だから、これからふたりで取り返していかないとね!
「今日はお弁当。だから外食はパスね」
「あれ? アメリアが? またどうしたのよ?」
「料理の勉強してるの」
「もしかして、好きな人ができたとか?」
「――手料理を食べてほしい人がいるの」
「ウソ! マジで? アメリアったら、いつそんな男の子と知り合ったの? もしかして、貴族? 騎士? 紹介しなさいよ!」
「男の子とは言っていない……」
「やっぱりそうだったのか。モカロがちゃんと責任取って貰ってあげる」
「何うぬぼれてるの、輝姫さまに決まってるじゃない! お役に立つことを分かってもらうの」
「ショック! アメリアに二股かけられていたのね……。モカロ泣いちゃうかも」
モカロが大げさに泣き真似をしていた。
「あ~あ、メイったら休暇まで貰うなんて、また上手くやったんだろうなー」
ため息交じりに呟いた。
「このあいだ、ラートハウスで何も起きてなきゃいいけど……」
モカロが意味ありげなことを言った。




