姉妹の意味
「そうだ、兄さんがどこへ行ったか聞いてないですか? 輝姫姉さまに会いに行ったっきり、まだ帰ってこないんだけど」
「あぁ、その、えーと、何て言えばいいのか――。スバルはダンジョンに薬を探しに行ったわよ……」
「この時期にダンジョンですか。それにしても、いったい何のために?」
「――スバルの妹のミーシャちゃんになら、言ってもかまわないかな……。実は、記憶喪失の……。国主さまやメイドさんたちに言わせると、輝姫は昔の記憶が無いらしくて。絶対、そんなハズないんだけどなぁ。まぁ、たぶんストレスからくる精神的なものよ。自分でもなぜか分からないんだけど、スバルとケーキを食べようとして一緒にナイフを入れたら取り乱してしまったことがあってね、それでスバルに余計な心配をかけちゃったみたいなの」
「本当に記憶が……? あっ、ケーキに入刀の時って、きっと、輝姫姉さまは結婚式が挙げられなかったから――。それがきっかけで、一時的に記憶が甦ってパニックを引き起こしたんじゃありませんか」
「ん? 結婚式も何も、輝姫には決まったお相手なんていないし――、だから、結婚なんてまだ考えたこともないんだけどな」
「う~ん……、よく分かったわ。なぜ兄さんが焦ってポーションを探しに行ってしまったのか。モンスターが迫るこんな大変な時だけど、輝姫姉さまのためとなると、兄さんったら周りが見えなくなっちゃうんだから仕方ないよね」
ミーシャはクスクスと笑った。
「ところでミーシャちゃん、わざわざ、姉さま、なんてつけなくてもいいよ。“輝姫”か、もっと気軽に“アカリ”とでも呼んでくれて全然かまわないんだけど」
「エェッ、とんでもないっ! ミーシャだけのせっかくのお姉さまを、呼び捨てになんてできないよ。世間に礼儀もわきまえないダメな妹と思われちゃうんだから!」
「あら――、そんなに大げさなものだっけ? 姉妹って似たような人を言い表すものじゃないの?」
「だって、輝姫姉さまはいずれスバル兄さまと結婚するんだから、当然、ミーシャの姉になるんだよねー。輝姫姉さまの妹ってポジションは、結構、自慢なんだ!」
アカリはまじまじとミーシャを見返すと、
「へッ? ちょっと待って! 輝姫って、スバルと結婚するんだっけ!?」
と聞いた。
「ハイッ。婚約は済ませているし、後は結婚式を挙げるだけです!」
「そんな、まさかッ!!」
いきなり胸にグサッと突き刺さるようなことを言われ、アカリはミーシャを睨んだが、楽しげにしゃべるミーシャがたちの悪い冗談を言っているようには見えなかった。
――あの、なんだかよく分からない勇者と、いきなり結婚まで話が進んでいたなんて……!? 輝姫ったら、早まったことをしてくれたわね!
でも、もしかしたら、いい人なのかもしれないけれど……。
あぁそうか、この世界は中世のような騎士と魔法の世界なのだから、まだ封建的で個人の自由なんてなくて、家の為に政略結婚させられるのかもしれない――ッ!
これはかなり不味いんじゃないかしら……。
「どうされたんですか、輝姫姉さま? 顔色が――。ああ、車酔いで気分が少し悪くなられたとか? ミーシャの馬車は乗り心地が良すぎる割にスピードが速いから、ギャップに慣れるまでしょうがないんだ。でも心配しないで。ちょっと休めばすぐによくなりますから」
アカリは青くなって呆気にとられると、シートの上で膝を立てて頭を抱え込んでいた。




