ミーシャのお詫び言
「まったくもう、あんな目にあわせておいて、IDカードはいらないとかふざけてるッ! ないから面倒が起きたんでしょ。どうせ城門を出る時とかに、不携帯で逮捕だー、とかまた言われるんだわ!」
カンカンになっていたアカリは、肩を怒らせてズンズンと廊下を歩いて行った。
「あのっ、輝姫姉さま、さっきは、なりすまし扱いしてごめんなさい! 許してくださるかしら?」
突然後ろから話しかけられたので振り向くと、ミーシャが立っていた。まるでかわいらしい小動物――リスやハムスターが警戒しつつも人に寄ってくる時を連想させるような顔をしていた。
「つまり――その、城塞都市を守るミーシャたち勇者隊としては、もしも万が一にも、ラートハウスに被害が及ぶようなことがないように、日々、厳重な警戒態勢を崩すわけにはいかなくて――」
「それで、誰彼かまわず逮捕して回っているのかしら? 問答無用で……。実はノルマを達成しないとボーナスがでないとか」
気が立っていたアカリは、つい、メイさんの敵討ちでもするかのように棘のある言葉をミーシャに投げつけてしまっていた。
「輝姫姉さま、ミーシャたちは誓ってそのような杜撰な真似はしません! 今回の件は、例外中の例外だったんです。ミーシャは今後、絶対に姉さまを失望させるようなことは――」
顔を真っ赤にして弁解するミーシャの言葉をアカリは遮った。
「ええ……、ミーシャちゃんの気持ちはよくわかったわ。アカリ、いえ、輝姫よりメイさんに謝ってあげてください」
アカリは胸元で腕を組むと、白い着物の振袖がフワフワと揺れた。
「はい、もう先ほど医務室で。あの……、よろしければ、ミーシャの馬車でお屋敷まで送らせてください」
「いえ、結構です。ひとりで帰れますから――輝姫はこれで――」
気遣いは嬉しいが、慌てて断った。そんなことまでされたら、帰りに商店街に寄り道するというアカリの密かな企みが潰れてしまうから。
――今日はとんでもない目にあったんだ。なにも急いでお屋敷に帰らなくても、少しくらい買い物でもして自由に羽を伸ばしてもいいはず――。
ペコリと頭を下げてその場を立ち去ろうとした。
「そう……ですか……。輝姫姉さまに、嫌われちゃった……。そうよね、挨拶代わりに放電を浴びせるような妹は、いらないよね……」
ミーシャは立ち尽くし、しんみりとした声でつぶやいていた。
「え? ミーシャちゃん」
アカリが振り向いて声をかける。するとミーシャはギュッと口を結んで、どこか怯えたような表情でアカリを見つめる。小柄な身体がますます小さくこわばっているかのように見えた。
ううっ、なんだか後ろめたい気がする。確か、アカリは何も悪くないはずだったのに、これではどう見ても妹をいじめる意地の悪い姉よ……。
廊下で通り過ぎて行ったはずのお役人さんたちが、まるで腫れ物に触るかのように遠巻きにしてふたりの様子を見ていた。
「ええと……、それじゃ悪いんだけど、送っていただけるかしら……?」
「ハ、ハイッ! 喜んでっ!」
ミーシャは明るく返事をすると、キラキラした笑顔で頷いた。




