死神兼女神
「すみませーん。写真撮らせてもらってもいいですか?」
後ろから声をかけられた。
長くて大きな鎌を肩にかけて、傷んだ黒いローブを身にまとったドクロが立っていた。眼孔がボヤーと青白く灯っていた。
「ヒィッ! 死神っ!」
タマちゃんが素っ頓狂な声を上げる。
「まさか、輝姫がこんなところにいるとは思わなくて。お久しぶり! 女神です」
頭を覆っていたフードをとってドクロの仮面を上にずらすと、金髪で碧眼のかわいらしい少女の顔が現れた。
「いえ、私はアカリですけど……。死神なのに女神なの?」
「そうなんです。いつもひとりでやってるから、現場が離れると大変なんですよー。それじゃお願いしますね」
女神はスマホをタマちゃんに渡すと、アカリの隣に並んで大鎌で刈るように両手で柄を持って構えた。アカリも負けずに手を口元に当て息を吹きかけるポーズを決める。
タマちゃんはきれいに写真を撮ってくれた。
「ありがとうございますっ!」と、陽気にいうと死神兼女神は人ごみの中に消えて行った。
「雪女 vs 死神か。こうして見ると、アカリも友達の方も結構気合入ってたわねー。これは強敵だわ」
「ううん、彼女とは初めて会ったと思うんだけど……どこかで会ったのかなぁ? でも、雪女の正装がふつうの人に見えて、仮装に見えない時点ですでに大会は苦しくない?」
スマホにコピーしてもらった写真を見ていると、
「おーい! お待たせー!」
向こうからボロボロの服を着た、まるで浮浪者のような少年が手を上げて近づいてきた。
「遅いよ~、ハルマって、なにそれ? 貧乏神のコスプレのつもり?」
タマちゃんが呆れたような顔をしてジロリと睨んで言った。ハルマは、タマちゃんの彼氏だ。
「どうよ、この衣装。古着屋でタダでもらってきたのを汚したり破いたりしてそれらしく加工したんだぜ。それに、このマスクをかぶるとだな……」
ハルマはなにやら袋から取り出して、頭からかぶった。顔が半分腐りかけたようなゾンビのマスクだった。
「はぁ? いつものハルマと一緒じゃないのよ。ねぇ、アカリもそう思うでしょ」
「まあタマちゃん、さすがにちょっとひどいんじゃない?」
「おお、やっぱりアカリさんは優しいなぁ」
あ、ヤバイんじゃ――と思った時には、もうタマちゃんはむくれていた。
「あっそ、それじゃ、ハルマはアカリとお祭りを楽しんで来たら? 私はもう知らないからっ!」
また始まった。でも、タマちゃんは本気じゃないのよね。こうするとハルマがご機嫌を取ってくれるし我がままを聞いてくれて甘えられるから、わざと怒ったふりをしているんだわ。
そんな勘弁してくれよー、とペコペコ謝るゾンビのハルマとあさっての方を向いてプンプン怒る猫娘のタマちゃん。
とりあえず、スマホに撮っておいた。
これはこれでふたりの愛情表現なのよ、とアカリは心の中でちょっぴり羨ましく思った。