ミーシャの憂鬱
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「チィーッ、イタタタッ! は……、弾かれたの!?」
ミーシャは唖然とした。
ロビーの絨毯に尻餅をついていた。スカートがめくれて白くてほっそりとした足が見えている。
頭を振って急いで立ち上がろうとすると、フラフラとバランスを崩してまた尻餅をついた。
「あぅっ!」
――メイドに向けて撃ったエレキは、狙い通り寸分の狂いもなくハンドグレネードを避けるようにヒットさせるつもりだった。電流を手足のように自由自在に扱うことなんて朝飯前だ。的を外すなんてあり得ない。
電気ショックで瞬時に気絶させてしまえば、ハンドグレネードを爆発させることなどできないのだから。
だけど……、白い着物を纏った銀髪の女に邪魔された!
まるで鏡に反射された光のように、途中でミーシャの元にエレキが跳ね返されてきたのだった。
メイドは途中で飛び散った放電の火花に触れて感電しただけだ……。
エレキの跳弾を受けてジーンと痺れる左胸をミーシャは両手で押さえ、しかめっ面をした。
フンッ! 電気ショックを自分で味わわされるなんて、屈辱……。やってくれるじゃない!
でも、いったい何が起きたっていうのよ? 刹那にこんなことができるのは、兄さんくらいしかいないと思ってたのに。
電撃なんてまともに撃ってたら、心臓を貫かれていたかもしれない。そんな……、違うわ。ミーシャの電撃なら、弾かれるわけないんだからっ!
それより、――跳弾で正確に心臓を狙うなんて、神業としか思えない――!?
ミーシャはブツブツ呟きながらやっと立ち上がると、スカートを直して小さなお尻をさすった。
「あ~、痛いったら、もう! お尻をしこたま打っちゃった……」
「――ったく、手間をかけさせやがって。牢屋にぶち込んでやるから、頭を冷やしてこい!」
「ま、待ってください! 早くメイさんに手当てをしてあげて! だれか、国主さまを呼んでくださいッ! 隊員じゃ話が通じません……」
「俺じゃダメだってか? おう、輝姫さま、留置場にも医務室くらいあるから心配すんな」
――ハァ? 輝姫さまですって~~!! まさか、兄さんがお忍びで会いに行った、あの復活したと噂の……?
「ちょっと待ちなさい、ベント! 今さら確認取ってないなんて言わないでしょうね!?」
「受付秘書が身分証と名簿を調べて通報したんでしょうから、賊に間違いないと思いますが? とりあえずこいつら処理してきますから、少し待っていてください、ミーシャさま」
「――まったくもって、VIP相手に大それたことをしでかしてくれたわねっ!! 肝心な時に身元照会を怠るなんて! 大至急、確認しなさい! まず、ベントとその受付秘書は不敬罪で逮捕でしょうから、そのまま留置場に入っていてくれても全然かまわないけど――」
「訳が分かりませんが……。本物の輝姫さまは、既にこの世には居りません」
「兄さんに言わせると、この世界にはいなかった、ってことなんでしょうね。ま、なるようになるでしょ。もし輝姫さま本人なら、赤の他人ってわけじゃないんだし……。しばらく辛抱してなさい」
「ああ、ミーシャさまは、スバルさまの婚約者の輝姫さまとは、姉妹の間柄になられるのか」
ミーシャはひょいと肩をすくめた。
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