ロビーで騒動 3
アカリとメイさんは、ロビーのレトロなデザインのソファーに腰掛けた。
スマホの時計に目を向ける。焦ることは何もない。ただ、国主さまに御神託を告げるだけのことよ。
――うん、心配ない。
「やっぱり……、いきなり来たのは不味かったかしら?」
「いいえ。なぜアカリさまが国主さまとお会いするのにご予約が必要になるのでしょう。とんでもないことです。本来ならば、受付も通す必要すらございません。今回は急でしたので連絡する時間すらありませんでしたが、本来ならば、逆に職員らが出迎えるべきなんです!」
「――そうかしら? 外に訪問に出かけるときは、予約くらい必要よ」
「あら、ラートハウスはお屋敷の敷地内ですし、アカリさまのお家の内のひとつなんですよ」
「へぇ――ッ!? 驚いた。どれだけ広いのよ!」
しばらく、壁面を飾りたてるロココ調の彫刻や忙しそうに往来する行政官たちの姿を眺めていた。
すると、ガチャガチャと金属質な音を響かせて、胸部にプレートアーマーを身を着けた騎士風の警備隊員が現れた。先ほど受付けた秘書と何やら話をしている。
受付秘書がこちらを指さして変な顔をしているような……。エルフのような大きな目で睨まれると結構おっかない。
なんだか嫌な予感がする。
「ちょっと、メイさん。なんかヤバい雰囲気なんじゃない?」
「度々、申し訳ございません。まさか、確認ひとつ取れば済む話を、それすら怠る秘書がラートハウスの受付にいるとは想定外でした……」
「まったくその通りね。いくら疎いアカリだって、国主さまはもちろん、お屋敷で長老や重鎮さんくらい見知っているもの」
ガッシリとした体格のよい大男の警備隊員が、アカリたちの前に来ると、まるで丸太のように太い筋肉質の腕を組んだ。
「おう、お前ら、ちょっと事務室まで来てもらおうか! ここは遊び場じゃないんだぞ!」
「無礼者!! こちらにいらっしゃるのは、輝姫さまです! 自分が何を言っているのか分かっているのですか!?」
「はいはい、輝姫さまとその召使いの御一行様ね。たまにいるんだよなぁー。気候のせいなのか? 俺も忙しくてな、勘弁してほしいんだ。とにかく、仕事の邪魔だから部屋に行こうか」
「末端の隊員では話になりません。隊長を――いえ、もっと高位の人を呼びなさい! もはや監督責任の問題です」
「おお、怖いメイドさんだねぇ。いい加減にしないとつまみ出すが、それでもいいのか?」
だんだんとアカリは頭にきた。黙って聞いていれば、そもそもこんな態度を取られる筋合いはない!
「ちょっと待ってください! アカリたちは、ちゃんと受付を通したじゃないですか。なぜ確認も取らずにそんなことをされなければならないんです? おかしいじゃないですか。一度、国主さまに問い合わせていただけますか!」
「けどな――、今、お嬢ちゃん、自分のことをアカリって口走っちまったけど、輝姫さまじゃなかったのかよ?」
「クゥッ! ――よく分からないけど、この異世界では、アカリは輝姫なんですッ!」
「もう分かったから、そう興奮するな。とてつもない別嬪さんなのにもったいねぇなぁー。おとなしく従えば、説教くらいで勘弁して――――うわっ!?」




