ロビーで騒動 1
「メイさん、どこまで行く気なの? 国主さまにお話があるだけなんだけど……」
「もちろん、ラートハウス――庁舎ですよ。アカリさま」
「なんだ……、お役所か。ここでもやっぱり、お役人が公務を執ったり議会が開かれるところであってる?」
「はい。国主さまはお仕事がお忙しくて、しばらくお屋敷に戻られていないのです」
「ふーん、アカリがはじめて意識を取り戻した時、ベッドの側にいらしたから、結構自由なのかと思ったんだけど違うんだね」
「ええ。あの時は相当無理なケジュール変更をおこないましたから。さすがに輝姫さまの一大事と平時の業務では比べ物になりません。その時の修正に、今も追われている形ですね」
「それにしても、連日泊まり込みっておかしくない?」
「実は、メイド仲間から聞いた話なんですが、勇者スバルさまの妹であるミーシャさまが、急きょいらっしゃるようなんです」
「ああ、あの雷娘のミーシャちゃんね……。何の用か聞けたの?」
「そこまでは――。たぶん、城塞都市の防衛のことについてじゃないでしょうか?」
「そうね……」
アカリとメイドのメイさんを乗せた馬車は、ロココ調の飾りと重厚な外観を持つ建物が並ぶ大通りに入って行った。突き当たりにある、まるで全天候型スタジアムのような巨大な建物の玄関を馬車ごと通り抜け、中に入って停車した。
ドアボーイが馬車のドアを開けて、アカリの手を取って降ろしてくれた。結構、車高があるので助かった。それに本当にお姫さまにでもなったかのよう。
周りを見回すと、行政官や事務職の女性たちが忙しそうに行き交っていた。浴衣姿のアカリを訝しげな様子でチラ見して通り過ぎて行く。
ううっ、突き刺さるような視線が痛い。
それもそうよね。女子校生が浴衣を着て、こんな政の中心地でうろうろしているんですもの……。なんて場違いなんだろう。
早く国主さまにモンスターの件をお伝えして、お暇させていただこうかしら。来る途中でチラリと見えた、レンガの塔と木組みの建物が立ち並んだ商店街に寄ってみたいし……。
草花や木などをイメージしたであろう細かな彫刻に飾られたロビーに入る。天井は高く、四階分くらいの高さが吹き抜けになっているように見えた。
ふかふかの絨毯を踏みしめながら奥に進むと、受付があった。
広々としたカウンターで、リボンデザインのラベンダーカラーのブラウスを着たエルフのような女性秘書が、微笑を浮かべながらテキパキと来訪者をさばいていた。
アカリとメイさんが受付に近づくと、小顔にパッチリとした目の秘書にかん高い声で
「いらっしゃいませ」と挨拶された。
挨拶を返し、さっそくメイさんが取次ぎをする。
――でも、なんだかいきなり揉めているような……。




