怪しいふたり(後)
『――あなた……探し続け――。恋……願い――――』
「ちょっと、聞いた!?」
「シッ! 煩いわね!」
さらに神経を集中して耳を澄ませる。すると、スーッと身に沁み込むような声音が響いてきた。
アッ、この声は、やっぱり輝姫さま……。ああ、心まで透き通るよう!
まるで宝石を散りばめたようにキラキラと輝くような歌声が、扉から漏れ聞こえてきた。
ただの歌なのに、なぜか心をとらえて離さない。もっとよく聴きたい、こんな扉越しではなく、側で直に!
ふたりのメイド少女は、より強く耳を扉に押し付けていた。しかし、歌声に夢中になりすぎるあまり、無理な姿勢でバランスを崩して足がもつれた。
「んっ、押すなってば!」
「あぁん、ちょっとダメだってッ!」
ガチャリと音がして、突然、扉が開いた。専属メイドのメイが廊下でズッコケたふたりを見下ろしていた。
「あなたたち、こんなところで何やってるのよ?」
「キャッ! えっとぉ、そのぉ――。そう、飲み物でもいかがかなぁと思ったものだから……」
「メイさん、どなただったのかしら?」
「あのっ、今の歌は、輝姫さまですよねっ!」
アメリアが跳びつくように立ち上がると聞いた。
「ヤダ、外まで聞こえてたの? メイさんに、この世界の歌を教えてもらっていたのよ」
「とてもお上手でびっくりしました! でも、なんで照明を消しているんですか? てっきり、メイと――」
「うん、その方がなんか気分がノルじゃない? こう、窓いっぱいの星空を眺めながら歌ったほうがさ」
だんだんと、うす暗い部屋に目が慣れてくる。いつも見慣れた空間のはずだった……。
新しく作られた寝巻用の浴衣に身を包んだ輝姫さまは、豪華な天蓋付ベッドに腰掛けながら黒曜石のような艶やかな目を伏せて、少し頬を染めて照れ笑いしていた。
部屋の窓のカーテンは全部開け放たれていた。星の光のように輝く長い銀髪をまとめ上げ、満天の星空の瞬きをバックにする輝姫さまは、超天空に暮らす聖女さまが降臨したかのように見えた。
幻想的な雰囲気に当てられてメイド少女のふたりは息を呑んだ。
「――それじゃあ、ミルクティー、お願いしようかな」
「ハ、ハイ、ただいまお持ちいたします!」
モカロとアメリアは肘でお互いを突き合いながら、
「なによ、全然話が違うじゃない」
「だって、そんなこと言ったって……」と囁きながら退出していった。
「まったく、いつでも会える担当のメイドが覗き……なんてするわけないわよね? あのふたり、怪しいんだから……。ホントは廊下で何してたのよ?」
腕を絡めるように肩を寄せあって歩くふたりを見送りながら、メイはため息交じりに呟いた。




