日本の夏休み
「アカリったら、あんたねぇー、仮装盆踊り大会を舐めてるでしょ!」
アカリは今、猫娘に叱られていた。正確にいえば、猫娘のコスプレをした友達のタマちゃんに。
「なんなのよー? その白い浴衣と銀色に髪を染めただけで雪女ってのは……」
タマちゃんは、がっくりと肩を落として盛大にため息をついた。
秘密だけど、アカリの地毛は本当は銀髪なのよ。いつもは目立たないように黒く染めてるんだ。
「でも、雪女っていったらこの衣装でしょ。なんてったってお母さんのおさがりなんだからねっ! 見てみて、帯だってすごくキレイなんだから!」
アカリは髪に手をやると、腰にまでかかりそうなロングの輝く銀髪を肩越しに前に持ってきてから、白い浴衣の振袖をブンブン振りながらクルリと回って白い帯を自慢気に見せた。足には雪駄に白足袋を履いて、どこから見ても完璧に雪女だ。
「アカリはこの伝統衣装にあこがれてたんだ。もう、高校の制服代わりに毎日着ちゃいたいくらい!」
「そんなに言うんならさぁ、ちょっと周りを見てみようか? みんなと比べてどうなのよ?」
ふたりの周りには、包帯を全身に巻いたミイラ男、鎧兜を身に着けた落ち武者、毛むくじゃらの着ぐるみ狼男など凝った仮装をした人たちが、ゾロゾロと会場の神社の境内に向かって歩いていた。
今日は夏祭り。イベントのひとつとして、仮装大会がおこなわれるのだ。
「そ、それはそうかもしれないけど、アカリは正統な雪女だから――。そういうタマちゃんはどうなのよ。金魚模様の浴衣に猫耳のカチューシャを着けただけじゃない」
「ネイルも見てよー。でもどうよ? キュートでかわいい猫娘でしょ?」
タマちゃんもアカリと似たようなものだと思うのだけど、なぜかドヤ顔でふんぞり返っていた。
うーん……、ショートカットの茶髪、クリッとしたつり目、八重歯もちょっと見えてるし、言われてみれば猫娘にそっくりだ。仮装じゃなくて、本人がだけど……。
十五歳の女子校生のアカリにとって、バイトは貴重な収入源として欠かせない。でも真夏の炎天下の中ではさすがにキツイ。
そんな時に、いい話持ってきたよー! 夏祭りの仮装コンテストで入賞したら賞金が出るそうよ。夜だから涼しいし、後援が町内会でブラックじゃないから安心して参加できるよ、と声をかけてくれたタマちゃん。
さすがに持つべきものは友達だと思ったのだけれど……。楽天家というか、読みが甘いのをすっかり忘れていた。
思わずアカリも、ハァとため息が出てしまった。
実際にお祭りに来てみると、学校で仮装大会の話を聞いた時には絶対にイケると思ったのに、やっぱりそんなに世の中甘くはないみたい。