怪しいふたり(前)
「――はじまったかも!」
輝姫部屋の豪華な扉に耳を当てて、中の様子を伺っていたアメリアが言った。
「もうちょっと詰めなさい!」
後ろで控えていたモカロが、慌てて扉のノブに跳びつくと鍵穴から覗こうと目を近づけた。しかし、扉にメイド少女がふたりも急に身を寄せたため、お互い頭を勢いよくぶつけて派手にひっくり返った。
「い、痛ったいッ!」
「だめよっ、シッ、静かにして」
尻餅をつきながら、涙目になってぶつけた頭と口を手で押さえ痛さをこらえる。
部屋の中から、扉に近づく足音が聞こえた。トットットッとした足音がすぐドア越しまで聞こえて来たが、また奥に戻って行った。
「ふぅ、助かった……」
アメリアがホッと溜息を吐いた。落ちた頭飾りのブリムを拾うとすぐに起き上がってドアに引っ付いた。
「本当に、輝姫さまとメイの関係が怪しいんでしょうね?」
モカロが問い詰めるように言うと、アメリアはキッと睨んだ。
「昼食の時に、輝姫さまから直接言伝を頼まれたのよ。時間がある時はメイに部屋に来るようにって! それも、せつなそうにされながらよ」
「やっぱりメイだけなのね。担当のメイドは他にもいるのに……」
輝姫さま担当メイドのアメリアとモカロは、ふたりとも同じ黒のメイド服に白いエプロンと髪にはブリムを着けていた。
アメリアは小柄でライトブラウンのショートヘア、大きなクリッとした丸い目が特徴的だ。
モカロはスラリと背が高く、ダークブラウンのボブカット。アメリアはすばしっこくて直感的に行動するが、モカロは周りをよく見てから行動する慎重派だった。
一緒にいると、お屋敷の他のメイドからは凸凹コンビと揶揄されることもある。
ふたりとも輝姫さまに憧れを抱いており、担当メイドに選ばれただけでも嬉しいことだった。しかし、同僚のメイがメイド長とケンカをしてまで主張を曲げず、輝姫さまの専属メイドの座を勝ち取る気概を見せたのには驚きを隠せなかった。
それにどうやらメイの一方通行の片思いではなく、なにげない普段の言動から察すると、輝姫さまもメイを気にかけていらっしゃるようなのだ。
「今度はモカロに替わりなさい。鍵穴から様子をしっかり確かめるから」
「ムリよ。――部屋の明かりが消えたわ!」
ふたりはそっと扉に耳を押し当てると、息をひそめて部屋の中の様子を探った。