表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生ガール  作者: 烏賊 宙
18/81

雷撃

 だが――、この黒い、まるで鎧兜を全体にまとった巨大な甲虫のようなモンスターは、動きを止めることもなく森を切り裂きながら平然と移動し続けていたのだった。

 大型とは聞いていたが、目の前にしてみるとミーシャが思っていたよりも数倍も大きく感じた。


「うわっ! こりゃあ、まずいですよ、ミーシャさま!」

「マズイって何がよ!?」


 ミーシャはサポートのベント騎士を(にら)んで言った。剣を手で探るがモンスターの巨大な爪と見比べて、何の意味があるのか、と思ってやめた。


「コイツは電気ショックで脳が麻痺して惰性で動いてるだけよ。ミーシャの雷撃(らいげき)がまったく効かないなんて、あり得ないんだから!」


 自分に言い聞かせるようにミーシャは声をあげた。ピンクの髪を振り乱して巨大甲虫型モンスターの進路から退避行動をとりつつも、呪文の詠唱を始めていた。今度は二重詠唱――、短縮呪文ではない、魔力を全開にした本気モードでだ。

 ミーシャは後ろに回り込んだ。

 敵の死角から攻撃するのは鉄則だと兄さんが教えてくれた。


「もう、手加減した様子見はお終いよ。黒焦げになってずーっと寝てなさいっ!!」


 ミーシャの身体に青い放電が走る。モンスターを指さすと、次の瞬間、真っ白な稲光と爆発音のように大きな雷鳴が轟いた。稲妻がモンスターを撃った。それも二本同時に雷が落ちたのだ。森を雷光が照らす。


「……ハァハァ、あっ……」


 ミーシャは肩で荒く息をすると、フラッと膝を折って地面に伏せった。


 ……さすがに、フルパワーで魔力を放出すると(こた)えるわね。でも、これで――。


 雷撃で一気に全身の力を使い果たしたミーシャは、腕で重い身体を支えあげて、土埃の中のモンスターに目を凝らした。額の汗をリストバンドで拭った。


 ――巨大な黒い影が目の前まで迫って来ていた。モンスターの巨体の振動が大地を揺らす。


「ヒッ――! な、何もダメージを受けていないというのっ!? そんなことって、あるわけ――ッ!」


 表情を硬くしたミーシャは、慌てて立ち上がろうとして前のめりに転んだ。


「な、何よ、このくらいっ! ミーシャは勇者の妹なのよ。なのに、もう、なんで力が入らないのよ……」


 いくら頑張っても膝はガクガクと震えるだけで、まるで腰が抜けたように立ち上がることができなかった。急激に魔力を消耗したせいか、まったく足腰が言うことをきかなかったのだ。

 後ろからサポートについて来ていたベント騎士が、急いで駆け寄る。


「大丈夫ですか? いきなり雷撃を三連発なんて無茶(ムチャ)、止めてください。後方から弓隊の援護射撃がきますから、それに乗じて脱出します!」

「冗談じゃないわ! ミーシャを誰だと思ってるの? あんなのただの小手調べに決まってるじゃない。――あっ、こら、ベント、やめなさいっ!」


 すぐさまベント騎士がミーシャを背負うと、巨大甲虫の脚の間を縫うようにして全力で逃げ出した。

 後方に展開していた弓隊から放たれた弓矢の雨が、モンスターを叩いていた。

 その間に、ふたりは待機させていた馬で戦域を抜け出した。


 ……よりによって、兄さんがいない時に、こんな化け物が現れるなんて……。もしも、このまま街へでも進まれたら大惨事になってしまうわ。情けない、留守番ひとつ満足にできないの? これじゃあ、いつまで経っても、兄さんに認めてもらえるわけないじゃない……。


「……ッ! 一時撤退よ。後を追ってこないように一個小隊をしんがりに当てて。モンスターの気を逸らすだけでいいわ。念のため、城壁の外門を閉じるように城塞都市に連絡します……」


 まだ昼過ぎになったばかりなのに、暗くなった空からバラバラと雹雨(ヒョウウ)が降ってきた。

 嫌な寒気が、ミーシャの背中をじわじわと登って来ていた。


※ ※ ※

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ