メガミロイド
♪~「端末情報 Megamiroidバージョンアップのお知らせ」
通じるはずのないスマホに、なぜか更新情報が入っていた。
「……あ、怪しい……。いったいどこから届くのよ?」
他に選択肢もないので、ピッと更新ボタンにタッチした。すると……。
「あなたの声と杖が女神を慰めるでしょう」とメッセージが表示された。
「まったく、あの女神さんは……」
期待していた訳じゃないのにがっかりしたアカリは、ちょっとふてくされて窓の外の景色を眺めた。鮮やかな青い空の向こうには山々が遠く連なっていた。
「アカリさま。今日は朝からいい天気ですね」
メイドのメイさんがアカリに微笑みかけていた。
アカリはモゾモゾとスマホを手に取ると、いつもの習慣で天気予報をなにげなく見た。
ん? 注意報がでてる。
「でも、お昼から嵐になるわ。雹と雷雨に注意ね……」
「えっ、でも――、こんなに雲ひとつないのに? 今日は、たくさんお洗濯する予定の日なんですけど」
「やめときなさいよ。降水確率100%。どうせ乾かないし、濡れて汚れたりしたら、全部洗い直しになっちゃうんだから。まあ、せめて部屋干しにしておくべきね」
アカリは椅子から立ち上がりウーンッと伸びをして、まだ眠そうな目をこすりながらラバトリーに向かった。
「だからですね! メイド長、アカリさまがおっしゃるには、午後から雷雨になって雹まで降ると――」
「でたらめを言うんじゃありません! 今日は雲ひとつない青空じゃない。洗濯を怠けたいがために、何も知らない輝姫さままで担ぎ出すとは不届き千万! 最近の若い娘たちときたら、いったい何を考えているのかさっぱりだわ」
嵐になるから洗濯の予定を変更した方がよいのではないかというメイの提案に、たった今、出勤したばかりのメイド長は声を荒げて言った。
なぜこうもメイド長が朝から不機嫌なのか、メイには分からなかった。しかし、聞き捨てならない言葉が含まれていたのだけは分かった。
「娘たちって――。それって、アカリさまのこともおっしゃっているんですかっ!?」
「簡単にメイドの口車に乗せられて、羽目を外されては困るのです。まさか、朝から輝姫さまがケーキを振舞われていただなんて……。せめて事前に一言教えてくだされば、ひと口も食べられないなんて惨めなことには……、いいえ! もっと効率よく分配を手配できたのに」
「アカリさまは、嵐になると教えてくださっただけじゃないですか!」
メイは、アカリさままで嘘つき呼ばわりされていることに耐えられず叫んでいた。
「ハアッ……、反省の余地なしのようね。それに、アカリさまではなく、正しくは輝姫さまです。いいでしょう。そんなに洗濯が嫌ならばもう結構です。お暇を与えますから、自室で謹慎してなさい」
「そんな、メイはただ……」
いくらアカリさまが魔力を失っているといっても、ちょっとした魔法ならば使えることをメイは見て知っていた。それに、朝、アカリさまが見ておられたのはメタルプレートの魔導書だったのだ。だから天気が崩れるのは、ほぼ間違いないのに。
「お言葉を返すようですが、アカリさまのお言葉を軽んじていらっしゃるのは、メイド長のほうですっ!」
ただ、好意で教えてくださったアカリさまを、怠け者メイドの片棒担ぎにするわけにはいかなかった。たとえ相手がメイド長であろうとも、ひくわけにはいかない――。
メイはカンカンに怒りながらメイド長の部屋を出た。