御神託
「それで、輝姫――。昨夜、いったい何があったんだい?」
翌朝、長衣をまとった国主さまから詳しい状況を尋ねられると、
「はい、――女神像の顔が似ていないと女神さんに言われました。金髪碧眼で、もう少し若々しい感じで……。ちょうど、女神さんからいただいたタワーケーキについている女神像のお顔のようですから――」と、アカリは事細かに伝えた。
「まさか、女神さまから御神託を受けられたのか!?」
「はあ、御神託だなんて大それたものではありませんけど。ちょっと立ち話をしただけですから」
アカリは笑って言った。
「そ、そうか――、直接、女神さまと会ったのか!?」
国主さまは驚いたように目を見開いてアカリを見つめていた。
十五年ぶりに女神さまからの御神託が下ったとのことで、お屋敷では、輝姫さまのご帰還を女神さまが祝福なされたと大騒ぎになってしまった。
だから違うって言ったのに……。どうしてこうなっちゃったんだろう?
アカリは首を傾げた。
朝食に、メイドさんがお皿にカットしてくれた女神さまのケーキをさっそくいただく。
しっとりフワフワしたこの世のものにはないような食感となんとも言えない甘さが、口の中に広がっては溶けていった。
とてもじゃないけどひとりで全部は食べきれないので、お屋敷のみんなにも女神さまのケーキをお裾分けした。
特に、髪の白くなった年配の重鎮さんやもじゃもじゃの顎鬚を生やした長老方が、涙を流して喜ばれていたっけ。
でも、さすがにお屋敷の使用人も含めると、全員の分はなかったわよね?
「輝姫さまからいただいたケーキだなんてもったいなくて――」
「いらないんだ……。なら遠慮なく~、いただっだだだだぁっ! な、何でつねるのよっ!?」
「やだなぁ、この間、シフト代わってあげたじゃないですか。お返しがまだでしたよね!」
「いいかげんになさい! ふたりとも早く仕事に戻りなさい。というわけで……」
「主任! 輝姫さまケーキをどこへ持っていくつもりなんですか? まさか、ひとり占めしようなんて思っていませんよね!」
なんだか、あちこちで棘のある声が聞こえるような……? メイドさん同士でとんでもないことになっていなければいいのだけれど。食べ物の恨みは恐ろしいって言うからなぁ。
「メイさんはもうケーキ食べましたか?」
「はい、アカリさま、とても美味しかったです。――実は、メイもケーキ作りは得意なんですよ!」
「へぇー、そうなんですか、今度ぜひご馳走してくださいね」
「腕によりをかけて最高級ケーキをご用意しますから、楽しみにしておいてください」
アカリの喉が大きな音を立ててゴクリとなった。
べ、別に、これはいま食べてるケーキを飲み込んだ音がしただけなんだからッ!
それにしても、メイドのメイさんの鼻息がやけに荒いんだけど、どうしたのかしら? もしかして、女神さんへの対抗意識とか――、そんなわけないわよね。