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短編・番外編・小ネタ集  作者: アルタ
体育会系ガーディアンとメビウスの輪 番外編
1/13

ザ☆体臭選手権

 一体全体何が原因でこんなことになったのかと考えれば……それは男達の手にすっぽりと納まってしまうほど小さな1本のスプレーだった。

 訓練の後、なにやらぷしゅー、ぷしゅーっとミントの香りをばら撒いている候補生が1名いたのである。

「お前、何してんだ?」

 隣にいた彼は最初虫除けスプレーかと考えたのだが、どう考えてもそんな繊細なタマではない。むしろ虫のほうが避けていきそうな凶相だ。何よりも彼はシャツを脱いで、わきや足の裏にスプレーしている。普通、そんなところ刺されないだろう。


 問われた彼は、

「まあ、身だしなみの一環?」

 と曖昧な笑顔を浮かべ、さっとスプレーを仕舞おうとする。なにかを感じ取った別の候補生が、後ろから気配を消して近づき、そのスプレーを華麗に奪い取った。


 『スーパーデオドラントスプレー (爽やかな男前は防臭する!)』


 なんだ、そのサブタイトルは! と心の中で突っ込んだその候補生は、高らかにスプレーを掲げて叫んだ。

「裏切り者がおる! むさ苦しい男集団から足抜けしようとしている野郎がいるぞおおおおお!」

「なにいいい!? 貴様、まさか彼女がいるのではないな?」

「3日前までは臭い仲間だったじゃないか!」

 その叫びはたちまち更衣室中に波及し、一時騒然となり、面白がったフレンディ副騎士団長が学級裁判のステージを作り上げてしまう。

 居合わせたベルナルドは呆れたように苦笑し、テオドールとヴィルマーが前半組でこの場にいなくて良かったななどと暢気に考えていた。彼らならこの騒動を拳で収めそうだ。


「罪状! 被告人は午前の訓練を終えた後、デオドラントスプレーを使用して体臭を隠そうとしたものである」

 1人の候補生がピシッと挙手して宣言する。それを引き継ぐように野次が飛んだ。

「ホームステイ先に可愛い女子でもいるのか!?」

「まさか近づいたりなどという浮ついたことはしてないだろうな」

「もしかすると麗しい人妻かも知れぬ」


 がやがやとするギャラリーに向かって、スプレーを持ったままの被告人は至極真面目な顔で答えた。

「何を言う。イイ男として当然の身だしなみだ! これから食事を取るのに汗臭いままでは料理に失礼ではあるまいか! 食事の良い匂いが己の体臭に取って代わるのだぞ。想像してみろ、悪夢だろ」

「異議ありいいいいっ! 何が料理に失礼だ! 貴様はこれまでの4日間の間『シャワー? んなものステイ先に帰るまでに浴びりゃあ良いんだよ』と主張していたことは、ここにいる大半が聞いている」


 どういう心境の変化だ。

「はっ! まさか貴様。料理じゃなくて、イリーナに嫌われないようになんて考えたんじゃあるまいな」

 その言葉に、ぐっと言葉に詰まる被告人。

 その様子に、彼らも少しは思うところがあったらしい。彼らとて、半月一緒に過ごすこととなる少女に嫌われたくなかったので、その気持ちは分からなくもなかったからだ。


「まあ、汗は訓練につき物だからな。あんまり敬遠してやるなよ」

「爽やかな汗はいいが臭いはだめだろ。まあ、俺の汗は臭くないがな!」

「ホントかよ。おーい、誰かコイツの靴下もってこーい!。履いたやつ」

「まてまてまてまて! ロッカー漁るな! 俺の負けだ!」

 面白がって開けられた彼のロッカーには、ちょこんと替えの靴下が3つ並んでいた。男達の総ツッコミが入ったのは言うまでもない。


「その辺にしておけ。前半組が昼食を食い尽くしてしまうだろうから、そろそろ行こう」

 項垂れたままの被告人が気の毒になったのか、ベルナルドがのんびりと仲裁に入る。

 その言葉に事態は収拾されるかとおもいきや、思わぬ方向からの攻撃に再度燃え上がることになった。主に変な方向に。


「いいよなー。ベルナルドは汗かいても爽やかで」

「……フレンディ副騎士団長?」

 完全に面白がっている表情でニヤニヤと笑いながら、フレンディ副騎士団長はさらに火に油を注ぎにかかる。

「知ってるか? テオドールの愛用品」

 汗を拭く振りして、実はこんなものを仕込んでいたんだなー……などど言いながら、さっと彼が取り出したのは『強力素足清潔ふきとりシート』。被告人の使用していたものと同じくミントの香りがついている。


「テオドールウウウウウウウ! あいつも裏切り者か」

 周囲に気づかせない当たり、レベルとしては向こうの方が上手か。

「いやあ、本人は汗で靴の中がぬるぬるするのが大嫌いなんだと主張していたけどね」

「あのテオドールをいじるとは……フレンディ副騎士団長って大物っす」

「ちょっとテオドールに同情した」

「あいつでも照れ隠しするのか」

 なんとなく近寄りがたい雰囲気だと思っていたテオドールを、身近に感じてしまった瞬間だった。


 候補生の1人がポツリとこぼす。

「そういや、そんなのに縁もゆかりもなさそうだよな。ヴィルマーは」

 南部の一般的な男衆と違って、貴族の血が入っているヴィルマーはエブリデイ爽やか男だ。体臭どころか男くささも感じさせない。

「魔法か?」

「いや、消臭魔法なんて聞いたことないぞ」

「朝にもシャワーを浴びていると聞いたことがあるぞ」

「完全防備?」


「……ヴィルマーの靴下も臭いのかな」

 夏場は本当に魔物がすみつくものである。

「確かめてみたくなるよな。ソレ」




 ――後日、訓練後のシャワー中にヴィルマーの靴下を盗もうとした者がいて、すんでのところで気がついた彼が犯人を半殺しにしたりしなかったりという噂が立ったが、その真相は謎のままである。

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