05.探し物はなあに?
「な、何でいないの……」
絶望に打ちひしがれるあたしを横目に、メグミとダイチはうんざりとした表情を浮かべた。
「いい加減諦めろって!」
「そうそう、名前も連絡先も分かんないんじゃあ、話になんない」
全然相手にしてくれない二人を一瞥し、暮れかけた夕日を見上げた。あれから、1週間、メグミ達も捲きこんで血眼で街を捜したのだけれど、オッサンの姿はどこにも見当たらなかった。
「ていうかさぁ、アンナ」
「な、なに、リョウ?」
「高級車に乗ってた、って時点で」
住む世界が違うんじゃねぇの?
正論なダイチの言葉が、あたしの胸に突き刺さり、返す言葉さえも出てこなかった。でも……、それでもあたしは会いたいのだ、オッサンに。もう一度会って、ちゃんとありがとうが言いたい。
「ああ、もう! どこいんの、オッサン!」
やけになって声を張り上げると、行き交う人達が珍しそうにあたしを見つめた。でも目が合うのは、知らないオッサンばかり。
「アンナ、」
「あー、ほんと何なんだ、あたしは」
溜め息をついたら、あの男の顔が脳裏に浮かんだ。一週間経った今でも鮮明に、覚えている。痺れるような声とか、撫でてくれた手の優しさとか。会えないと思えば思うほど、あたしは確実にあの日に男に惹かれている。
「会いたいなぁ、ちくしょう」
『また会える、いつかな』
「今、会いたいんだよ、オッサンのばか」
小さく呟けば、白い息が漏れる。悶々とした頭を北風が晒し、あたしはぎゅっと制服の袖を掴んだ。血が上ったあたしには、このくらいの冷たさが丁度いい。
探そう。ウジウジしていてもしょうがない。運命とか偶然とか、そんなものどうでもいい。あたしはあの男に会いたい。それだけだ。真っ直ぐに前を見据えると、ガラス張りのホテルが見えた。ここは、確か、あのオッサンと来たホテルだ。
「あの、ホテル」
「え? ああ、アンナがそのオッサンと行ったってホテル?」
「うん」
「すげぇ、高級だよな。ほら見ろよ、あそこで崇高な商談してる」
ダイチがおどけてそう言う。あたしは笑いながら、ダイチの指差す方向を見据えた。
時が止まる。
「オ、オ、オッサン!」
ガラス張りのホテルの1階に、あの日と同じようにブラックスーツに身を委ねたあの男が、偉そうな大人達と話し合っている。黒髪も、色素の薄い瞳も、相変わらず妖艶なその容姿も何ひとつ変わっていない。これは何かの間違いなのかと、目を擦るが、映像は変わらない。じゃあ夢なのかと、頬を叩けば、じんじんと頬が痛んだ。
「何してんの、お前」
「あ、あたし行ってくる!」
「ちょ、ちょっと! アンナ!」
あたしはメグミの言葉を最後まで聞かず、ホテルへと足を速めた。だって、そこにあの男がいるのだから!
ホテルの玄関を駆けぬけ、あたしは奥のロビーへと向かった。
「オッサン!」
4、5人のスーツ姿の男たちが一斉に振り返る。
「何ですか、あなたは」
「大事な商談中です、部外者は立ち入らないでもらえますか?」
秘書らしき女達があたしの行く手を阻む。あたしはそれを振りきると、あの男の前で足を止めた。男は、ゆっくりと顔を上げ、あたしを見据える。
ほら、何やってんの、あたし。言わなきゃ。えっと、何て言おうと思ってたんだっけ? 会いたくて、ずっと、会いたくて。だから、あたしは、
「オッサン、好き」
あ、あれ?