表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Doubt!Doubt!  作者: unicorn
2/5

02.オッサンと女子高生



 付いて来いと言われて素直に付いていくあたしも、あたしだと思う。でも携帯も没収され、彼氏にも振られ、サイフすら無くしたあたしは、もう落ちる所まで落ちているのだから何も怖くないんだ。そういい聞かせて、ブラックスーツの後姿を追った。後ろを振り返ると、苦虫を噛み潰したような顔のハゲオヤジが、地団駄を踏んでいるのが見えた。(う、うん、あんな男よりは、目の前のスーツ姿の男の方がマシだ)








「ちょっと、待って、どこ行くの」








 男は何も言わずに黙々と歩みを進める。名前を知らないあたしは、ねぇとか、ちょっととか、オッサンとか、そんな言葉を発しながら、男を追った。










「乗れ」










 足を止めた男が指した車は明らかに高級車だった。運転席に乗るのかと思えば、もう既にドライバーが乗っている。左ハンドルだし、異様に車体が長い。こんな車、テレビでしか見たことが無いあたしは、思い切り情けない顔で男を見上げた。










「え、乗れって、これ」


「援交しようとしてた割には、度胸ねェな」












 あたしが男を睨み付けると男は憎たらしい笑みを浮かべた。乗ってやろうじゃないか、とことん最低なこの日に、知らない男に付いて行って、知らない高級車に乗る。上等だ。






「乗る」


「訂正するよ、あんたは度胸のある女子高生だ」








 ククっと喉の奥で笑った男から、不機嫌に目線を逸らし、あたしはドアを開けようと手を伸ばした。その時、前の方から運転手らしき男が降りてきて、あたしの目の前のドアをスマートに開けた。どこまでもテレビで見たような光景に眩暈すら感じる。黒塗りの車に足を踏み入れると、また激しい眩暈に見舞われた。




「ちょ、ちょ、ちょ、」


「は?」


「な、な、何、この、く、車」


「落ち着けよ、」


「なんで……!(なんで、車の中に冷蔵庫があんの)」




 あたしの膝くらいまでの大きさの冷蔵庫が堂々と置いてあり、そして広くてふかふかのソファが当たり前のように連なっている。長い男の足を伸ばしてもまだ余裕がある車内。どちらにしても、とんでもない男に付いてきてしまったことには間違いないらしい。




 マルボロに火をつけると、男は不機嫌そうに顔を顰める。一体、何者なんだこのオッサンは……。あたしは素性を探ろうと、改めて男を見つめた。少し長めの黒髪に、色素の薄い瞳、今更ながら女に不自由はしていなそうなこの男が、どうして援交なんてしようと思ったのだろう。ヤクザ? いや、ありえないこともない……。ホスト? ああ、なんとなくありえる。そんなバカなことを考えている間に車はゆっくりと走りだし、もう戻れないのだと流れていくイルミネーションが告げた。






「お前、名前は?」


「あたしは、アンナ……じゃなくて(本名言ってどうすんだ、あたしのバカ!)」


「アァ?」


「あたしは、えっと、ア……、そう、ア、アンジェリーナ!」


「へぇ、随分シャレた名前だなぁ」






 確実にバカにした笑みを浮かべた男。あたしは煽られるように、男の名前を聞いた。






「オッサンは? 名前」


「一夜限りの関係なんだ、別に構わねぇだろ?」


「一夜限りって、別にあたしは!」


「セックスするつもりはねぇって?」






 都合が良すぎるな、アンナ。なんて耳元で囁くこのオッサン。低く威圧感のある声が、脳を麻痺させる。うわぁ、本名ばれてるし。








「や、やっぱ、あたし帰ります」








 一瞬引いたあたしの体を、オッサンの大きな手が遮った。手首を捕まれ、一層引き寄せられる。動揺して見上げると、整った色素の薄い瞳が、あたしの間抜けな顔を映しだしていた。オッサンの大きな胸板から嫌味のないフレングラスの香りが漂う。なに、これ。心臓がドクドクと悲鳴を上げ、もう完全に白旗状態だ。惑わされてしまう、早く逃げなければ……。


 






「もう遅い」








 オッサンが酷く艶のある声で告げる。何が遅いの、なんて惚けてみたけれど、オッサンの腕の力は弱まらない。逃げられない、そう思ったら、今更恐怖が背中を襲った。





後悔先に立たず。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ