天候操作の兄妹
シュイ・ストーム
レイ・ストーム
二人は双子で、同じ母の腹の中で育って一緒に産まれた。
片方は雨、
もう片方は雷。
燦々と降り注ぐ太陽の下、妹のレイは魔法のコントロールができない。
ジメジメとした雨の日の屋内、兄のシュイには決定力がない。
ギルドの評価はそれぞれ単体でBランク。
ただ、二人揃うとなんとSランクである。
一人前の実力があるはずの2人だが、周囲の冒険者からはいつも不完全な双子と陰口を言われていた。
片方がいなければ、その実力を完全に発揮できないから。
「はぁ、だから言ったんだ。今日の依頼、俺たちには荷が重すぎるって。」
薄暗い森の奥深く。
決壊した防衛線の向こうから、咆哮が響く。
それは、国家災厄級にまで指定される巨大な魔獣だった。
周囲にいる高ランク冒険者たちですら、恐怖に顔を引き攣らせている。
「何言ってるのお兄ちゃん!
ピンチってことは、私たちの出番ってことでしょ!」
隣で水色のロングヘアをなびかせたレイが満面の笑みでシュイの背中をバチンと叩いた。
レイの金色の瞳には恐怖など1ミリも浮かんでいなかった。
「痛っ……。レイ、前向きすぎるのも病気だ。
あんなの、どう見ても俺たちが勝てる相手じゃない……」
「勝てるよ。だって私にはお兄ちゃんがいるもん」
レイがシュイの左手を握りしめる。
「……しょうがないな。じゃあ、サクッと終わらせて帰ろう」
金髪のシュイの青い瞳が魔力を帯びる。
お互いの呼吸は生まれた時から知っている。
繋いだ手から言葉以上の意志が流れ込んでくるような気がする。
「お兄ちゃん、ステージをお願い!」
「あぁ。滾れ、『雨天豪雷』」
シュイが右手を天に掲げた瞬間、
さっきまで綺麗だった青空が一瞬にして禍々しい黒雲に覆われて
激しい豪雨が戦場を包み込んだ。
「おい、何を考えてんだ!
ただでさえ視界が悪いのに雨降らせてどうすんだ!」
「あのガキどもがパニックになって魔法を暴発させたか!?」
周囲の冒険者たちが絶望の声を上げる。
だが、降り注ぐ雨が魔獣の巨体を、そして戦場すべてを水浸しにしたのを見て、レイの口元が不敵に吊り上がった。
水色の髪に混じる、金色のメッシュがバチバチと火花を散らす。
「誰も暴発なんてさせてないよ。お兄ちゃんナイス!」
レイが一歩前に出る。
この豪雨の中、彼女が消費する魔力は0だ。
「天に響け、『雷鳴水響』!!」
レイが叫んだ瞬間、漆黒の雨雲から極太の白銀が突き刺さった。
それも一本や二本ではない。
天の怒りがそのまま具現化したかのような
無数の雷霆が大地へなだれ込んだ。
「ガ、ア、アアアアアアアッッ!?」
国家災厄級の魔獣が、
生まれて初めて経験するような恐怖に絶叫した。
逃げようにも、
戦場はシュイの降らせた豪雨によって完全に水浸しだ。
水は伝導体となり、
逃げ場のない超高電圧が魔獣の巨体を芯から焼き尽くしていく。
光が視界を白く染め上げ、衝撃波が木々をなぎ倒す。
少し前まで戦場を支配していた絶望は、
跡形もなく消し飛ばされていた。
やがて雷鳴が止む。
シュイが魔法を解除すると、
さっきの光景が嘘だったかのように雲が割れて
再び太陽の光が差し込んできた。
そこに残されていたのは、
完全に炭化しピクリとも動かなくなった魔獣の骸だけだった。
「……は?」
誰かのマヌケな声が響いた。
上位の冒険者たちが、武器を握ったまま硬直している。
Cランクの、それも片方だけでは「不完全」と言われていた双子が、国家災厄級を一撃で消し炭にしたのだ。
「やっぱり心臓に悪い、レイ。
あんなでかい音が耳元で鳴ったら寿命が縮むよ…」
シュイは耳を押さえながら、いつも通りの気弱なため息をついた。
「何言ってるのお兄ちゃん!
今日も最高の雨だったよ!ほら!」
満面の笑みのレイが、シュイの前に掌を差し出す。
シュイは文句を言いたそうにしたが、諦めたようなため息を吐いて
妹の手とパチンとハイタッチを交わした。




