表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
中年とギャル  作者: 只野 唯


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/14

6


 中年になると、すべてに少しずつ重みが増す。

階段を上るのもそうだし、メールを一本返すのもそうだし、昼メシを選ぶことさえ、地味に面倒くさい。


 何が食べたいのか考える。混んでいる店を避ける。財布と相談する。並ぶかどうか判断する。


 たったそれだけのことに、脳のリソースを持っていかれる気がする。だから朝、コンビニで適当につかんだ総菜パン。惣菜コーナーの端にあった、ハムチーズ。


 嫌いじゃない。でも、好きでもない。

そんな曖昧な昼飯を、今日も机でかじっていると、


「山本さん、いつもそのパン食べてますけど好きなんですか?」


 ななめ前の席のギャルの朝倉が、ひょいと体を傾けてこちらを見る。指先は今日も春めいている。自分とは対照的に、きらきらしている。


 好きか、と聞かれると困る。

好きだから食べているわけじゃない。


 ただ、楽だから。

失敗しないから。

考えなくて済むから。


「どうかな」


 曖昧に笑って答える。

自分でも情けない返事だと思う。


 本当は「楽だから」と言えばいいのに、

「考えるのが面倒なんだ」と言えばいいのに、

どこかで格好をつけたくなる。


 若い彼女の前で、

“何も考えていないおじさん”に見られたくない。

でも、結局は曖昧なまま。


 パンをひとかじりする。

味は、想像通り。安心と、少しの退屈。

(またちょっと、自分のことが嫌いになりそうだな)


 そんなことを思いながら、視線を落とす。

すると彼女が、あっさり言った。


「いいですよね。ハムとチーズなんて間違いないじゃないですか。私、絶対好きです」


 屈託のない笑顔。


 好きでもない、なんて言わなくてよかったのかもしれない。好きかどうか、はっきりしなくても。選ぶ理由が“楽だから”でも。


 それでも昼は来るし、腹はは減るし、午後の仕事も始まる。中年の凝り固まった卑屈な思考が、若者の真っすぐさに、少しだけほぐされた気がした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ