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「似合ってるね」
たったそれだけ。
なのに、朝から心の中ではクラッカーが鳴っている。
パーン、パーンって。
山本さんはどちらかといえば保守的。
流行ど真ん中より、きちんと感を好むタイプ。
派手色よりベーシック。
盛るより整える。
だから今回は攻めなかった。
いつもの強めカラーは封印。
ラメも控えめ。
淡い桜色に、小さな花びらをひとつだけ。
正直ちょっとだけ不安だった。
物足りないかな、とか。
私らしくないかな、とか。
でも。
「似合ってるね」
低くて落ち着いた声で、ちゃんと目を見て言われた。
もうそれで十分。
パソコンのキーボードを打ちながら、つい自分の指先を見る。
ピンクが柔らかく光る。
にやける。
(やばい、止まらない)
画面に映った自分の顔が、ほんのり緩んでいるのがわかる。
仕事中なのに。
後悔はない。
むしろ大正解。
山本さんの「似合ってるね」は、
流行のどんな褒め言葉より効く。
春はまだ少し冷たいけど、
私の指先と心は、もうとっくにあったかい。




