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駅から会社に向かう道は、今日もビル風が容赦ない。
コートの隙間に入り込む冷気に、思わず背中が丸くなる。
春はまだ名ばかりだ。
そんな朝、向かいの席のギャルの同僚が、やけにきらきらして見えた。
「見てください、桜モチーフのネイルです」
ひらりと掲げられた指先。
淡いピンクに小さな花びら。
光を受けて、ほのかに透ける。
若い。
眩しい。
こちらの曇りきった冬の心まで浄化されそうだ。
「……似合ってるね」
それだけ言うのが精一杯だった。
もっと何か言えなかったのか。
春が先取りだね、とか。
指先まで季節を連れてくるなんて素敵だね、とか。
でも口から出たのは、四文字。
似合ってるね。
彼女はにっと笑った。
「ありがとうございます!テンション上がるんですよね、こういうの」
その笑顔は、三月の陽射しみたいにまぶしい。
俺はというと、乾燥した手でマウスを握りながら、自分の指先をちらりと見る。
無骨。
潤いゼロ。
季節感、皆無。
ビル風はまだ冷たい。
でも向かいの席だけ、ひと足先に春が来ている。
おじさんは今日も、背中を丸めながら、そっと春を眺めるのだった。




