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私には、会社に好きな人がいる。
斜め向かいの席に座る山本さんだ。
パソコンの画面越しに、ちらりと視線を上げる。
真剣な顔。少し伏せた目元。
笑うとできる、うっすらとしたシワ。
前は「疲れてるのかな」なんて思っていたのに、今は違う。
そのシワさえ、いとおしいと思ってしまう。
恋って、不思議だ。
「山本さん、今日元気ないです?」
思いきって声をかけると、山本さんは椅子にもたれながら苦笑した。
「あーちょっと、朝時間なくて朝飯抜いたからかも」
ネクタイが少し曲がっている。
いつもより髪も整っていない。
それだけで、胸がきゅっとする。
「えー、お腹空いちゃいますよ」
私は引き出しを開けて、常備している飴を取り出す。
本当は自分用。
でも、こういう日のためでもある。
「よかったらどうぞ」
そっと一つ差し出すと、山本さんは目を丸くした。
「おー、ありがとう。朝倉さんのおかげで午前中を生き延びられそう」
両手を合わせて拝む仕草。
「大げさですね」
笑いながら返すけど、内心は大騒ぎだ。
“朝倉さんのおかげ”
その一言だけで、午前中どころか一週間くらい生き延びられる。
山本さんは飴を口に入れて、「甘い」と小さく呟いた。
その横顔を、またこっそり盗み見る。
好き。
ただ飴を渡しただけなのに、
たったそれだけで、今日はいい日だと思えてしまう。
斜め向かいの席の距離が、もどかしい。
でもこの距離だからこそ、味わえるときめきもある。
山本さんがふと顔を上げて、目が合う。
「なんですか?」
「いや、助かったなと思って」
また笑う。
その目元のシワが、やっぱり愛おしい。
恋って、本当に不思議だ。




