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本文 10/10

いつからだろうか。気づけば、ボクは窮屈だった。

時には鬱屈(うっくつ)で、卑屈(ひくつ)にもなった。

ボクの、不正解のばかりの人生に意味などあるのだろうか。


25歳のボクの肉塊が、このボクの体に倒れ込んでくる。

ボクも、25歳のボクみたいに、35歳のボクに、運命を否定されてしまう。

ただ重たいだけの虚しさに胸が引き裂かれそうになる。


これが大人なのだろうか。

無策で抗った末に散ることが。

目的のために力を行使することが。

悟りの中で歪みながら幸せになることが。


なにもかも、期待外れだった。

もっとかっこよくて。もっとうつくしくて。もっと......。

でも、いちばんの期待外れはボクだった。

無策で抗った末に散るのが嫌で、選ばなくて。

目的のために行使する力がないから、選べなくて。

悟りの中で歪みながら楽になることなんてできなくて。


逆説に逆説を重ねて迷って。

否定に否定を重ねて無意味になって。


ああそうか、ボクがいつもこんなことをするのは、

こんなボクでも変われる何かがきっとあると、

それをずっと、求めているからで。


「これで俺の勝ちだ」


35歳のボクは、血が滴るナイフをボクに向け、

エンドロールに慈悲を与えるように、静かに語り始めた。


「主催者は『過去の自分を全員殺せば、今までをやり直せる』といったが」

「25歳のボクを否定して、分かったことがある」

「俺はもうすでに、25歳からこれまでの人生を改変できる」

「だから、俺が争う理由はない。どうする?」


またしてもボクは、何も選ばずに生きれてしまう。

まるでボクがボク自身の人生を拝読するかのように、

主人公にならずとも、ただ生きれてしまう。

それで良いじゃないか。

争わなければ、及第点のハッピーエンドじゃないか。


「運命を否定された42歳の俺と、25歳の俺。彼女らの全ては無意味だったな」


............。


無意味だった。

彼女らが願ったことは何一つ叶わなかった。


............。


無意味だった。

15年生きてきたことも。

無意味だった。

この世界に来て、大人とは何か、問うていたことも。

無意味だった。

人生に憂いだことも、頑張って対話しようとした瞬間さえも。

無意味だと認めよう.....。


『私は自分の人生の主人公になりたい』

『君がだいすきだと、僕は伝えたいっ』


そう、人が本心で語った願いさえも、無意味だと、認め......。


『争わなければ、及第点のハッピーエンドじゃないか』


逆説に逆説を重ねて頭がおなしくなりそうで。

否定に否定を重ねて自我がおかしくなりそうで。

でも最期の最後に否定できないものが、なんで......。


なんで、こんな時に怒ってしまっているんだ。


「なんでそんなことが言えるんだよッ!」


ボクは、

『人が本心で語った願い』を、

自分でも無意味できなくて、

無意味だとも偽れなくて、

誰からも無意味されたくないんだ。


「俺が勝ったからだ」


あぁそうかこれが終わりか。

争えば、ハッピーエンドじゃなくなる。

これが、終わりを見据えるということか。

心臓が震えるように脈打つ。


「ボクは数分後に死んでいる」


「そうか。俺が完全な勝者ということか」


25歳の死相は、15歳のボクの思想によって紡がれる。

人の思想を、文学を(もっ)て哲学へと昇華する才を、15歳のボク本人は気づかない。


「違うよ。遠いよ」


15歳のボクは35歳のボクに、『遠い』と言い放った。

屍となって初めて紡がれる意味もある。


「死を定め、初めて人生は始まれるんだ」

「完成図もなく、蔵を建てることができないように」

「完成品目の無いレシピがないように」

「どう生きたいが先では無いんだ、35歳のボク」

「どう死ぬかが、先なんだ」


人が本心で語った願いを

自分を含めて誰からも無意味にされたくないと

その為には死ねてしまう自分は狂っているのだろう。


苦しんで(もが)いて、無意味にしたくないものが見つかって

その為なら、

死という辛さの前でも、

狂い咲くことができる。


「そうして、人は意思を未来へ繋いでいくんだよ」

「どんな運命も否定しなくてもいい」

「だって惰性の勝者の椅子は、(さぞ)かし冷えるから」


運命は、分水嶺(ぶんすいれい)が如く、分かたれた。


「俺はお前を否定してここを出るッ!」


「敗因は、ボクに選択権を与えたことだよ!」


ナイフがボクの頬を掠めた。

ただ迫り来るナイフから逃げ、必死に避ける。

何回も、何回も、何回も。

(たばか)りなど持っていない。


思えば、ボクが選択できたのはボクの死に方だけだった。

数分後、ボクは殺されて......

それでも、死に方を選べたボクに迷いはなかった。

避けて得られる数秒の命の、生きているという実感が誇らしい。

100年も数分も、時間という本質的な概念は変わらない。

数分を必死で生きることも。100年生きることも。

きっと本質的には変わらない。


ナイフがボクの心臓を貫いた。


「お前の敗因は、選択を間違えたことだ」


そんなこと言われるなんて辛いなぁ。

でもボクは、そんな辛さに抗える強さをすでに持っている。


////////////


目の前には、25歳のボクがいた。

どこも怪我をしていない25歳のボクだ。


「ボクの人生は無意味だったよ。死んじゃった」

「ほら見て。その無意味さを嘲笑うかのように、この世界は変わらず回ってるよ」


「無意味じゃないよ。君がいたから、僕の世界は回っていたんだ」

「人知れず、誰かが世界を回したから、今の世界が回っているんだ、と僕は読者に伝えたい」


ありがとう。この作品を読んでくれて。

FFさんがいるおかげで、ボクの世界は回っている。

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