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いつからだろうか。気づけば、ボクは窮屈だった。
時には鬱屈で、卑屈にもなった。
ボクの、不正解のばかりの人生に意味などあるのだろうか。
25歳のボクの肉塊が、このボクの体に倒れ込んでくる。
ボクも、25歳のボクみたいに、35歳のボクに、運命を否定されてしまう。
ただ重たいだけの虚しさに胸が引き裂かれそうになる。
これが大人なのだろうか。
無策で抗った末に散ることが。
目的のために力を行使することが。
悟りの中で歪みながら幸せになることが。
なにもかも、期待外れだった。
もっとかっこよくて。もっとうつくしくて。もっと......。
でも、いちばんの期待外れはボクだった。
無策で抗った末に散るのが嫌で、選ばなくて。
目的のために行使する力がないから、選べなくて。
悟りの中で歪みながら楽になることなんてできなくて。
逆説に逆説を重ねて迷って。
否定に否定を重ねて無意味になって。
ああそうか、ボクがいつもこんなことをするのは、
こんなボクでも変われる何かがきっとあると、
それをずっと、求めているからで。
「これで俺の勝ちだ」
35歳のボクは、血が滴るナイフをボクに向け、
エンドロールに慈悲を与えるように、静かに語り始めた。
「主催者は『過去の自分を全員殺せば、今までをやり直せる』といったが」
「25歳のボクを否定して、分かったことがある」
「俺はもうすでに、25歳からこれまでの人生を改変できる」
「だから、俺が争う理由はない。どうする?」
またしてもボクは、何も選ばずに生きれてしまう。
まるでボクがボク自身の人生を拝読するかのように、
主人公にならずとも、ただ生きれてしまう。
それで良いじゃないか。
争わなければ、及第点のハッピーエンドじゃないか。
「運命を否定された42歳の俺と、25歳の俺。彼女らの全ては無意味だったな」
............。
無意味だった。
彼女らが願ったことは何一つ叶わなかった。
............。
無意味だった。
15年生きてきたことも。
無意味だった。
この世界に来て、大人とは何か、問うていたことも。
無意味だった。
人生に憂いだことも、頑張って対話しようとした瞬間さえも。
無意味だと認めよう.....。
『私は自分の人生の主人公になりたい』
『君がだいすきだと、僕は伝えたいっ』
そう、人が本心で語った願いさえも、無意味だと、認め......。
『争わなければ、及第点のハッピーエンドじゃないか』
逆説に逆説を重ねて頭がおなしくなりそうで。
否定に否定を重ねて自我がおかしくなりそうで。
でも最期の最後に否定できないものが、なんで......。
なんで、こんな時に怒ってしまっているんだ。
「なんでそんなことが言えるんだよッ!」
ボクは、
『人が本心で語った願い』を、
自分でも無意味できなくて、
無意味だとも偽れなくて、
誰からも無意味されたくないんだ。
「俺が勝ったからだ」
あぁそうかこれが終わりか。
争えば、ハッピーエンドじゃなくなる。
これが、終わりを見据えるということか。
心臓が震えるように脈打つ。
「ボクは数分後に死んでいる」
「そうか。俺が完全な勝者ということか」
25歳の死相は、15歳のボクの思想によって紡がれる。
人の思想を、文学を以て哲学へと昇華する才を、15歳のボク本人は気づかない。
「違うよ。遠いよ」
15歳のボクは35歳のボクに、『遠い』と言い放った。
屍となって初めて紡がれる意味もある。
「死を定め、初めて人生は始まれるんだ」
「完成図もなく、蔵を建てることができないように」
「完成品目の無いレシピがないように」
「どう生きたいが先では無いんだ、35歳のボク」
「どう死ぬかが、先なんだ」
人が本心で語った願いを
自分を含めて誰からも無意味にされたくないと
その為には死ねてしまう自分は狂っているのだろう。
苦しんで踠いて、無意味にしたくないものが見つかって
その為なら、
死という辛さの前でも、
狂い咲くことができる。
「そうして、人は意思を未来へ繋いでいくんだよ」
「どんな運命も否定しなくてもいい」
「だって惰性の勝者の椅子は、嘸かし冷えるから」
運命は、分水嶺が如く、分かたれた。
「俺はお前を否定してここを出るッ!」
「敗因は、ボクに選択権を与えたことだよ!」
ナイフがボクの頬を掠めた。
ただ迫り来るナイフから逃げ、必死に避ける。
何回も、何回も、何回も。
謀りなど持っていない。
思えば、ボクが選択できたのはボクの死に方だけだった。
数分後、ボクは殺されて......
それでも、死に方を選べたボクに迷いはなかった。
避けて得られる数秒の命の、生きているという実感が誇らしい。
100年も数分も、時間という本質的な概念は変わらない。
数分を必死で生きることも。100年生きることも。
きっと本質的には変わらない。
ナイフがボクの心臓を貫いた。
「お前の敗因は、選択を間違えたことだ」
そんなこと言われるなんて辛いなぁ。
でもボクは、そんな辛さに抗える強さをすでに持っている。
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目の前には、25歳のボクがいた。
どこも怪我をしていない25歳のボクだ。
「ボクの人生は無意味だったよ。死んじゃった」
「ほら見て。その無意味さを嘲笑うかのように、この世界は変わらず回ってるよ」
「無意味じゃないよ。君がいたから、僕の世界は回っていたんだ」
「人知れず、誰かが世界を回したから、今の世界が回っているんだ、と僕は読者に伝えたい」
ありがとう。この作品を読んでくれて。
FFさんがいるおかげで、ボクの世界は回っている。




