プロローグ
僕は君とふたりぼっちだった。
僕が、小説を書くためのボールペンをそっと握ると、君はさらっと筆跡で応えてくれる。
そのやりとりが何とも心地良かった。
でも悲しいかな。
だって、その行間には、いつか終わってしまう悲しさを孕んでいるから。
「それは、あなたがそうしているのでしょう?」
その言葉通りすぎる。
僕は、物語の登場人物を、僕が表現したい舞台で描いている。
僕はただ、生きる意味を探究したくて。
登場人物全員が死する運命を描いてしまっている。
「でも、そのことに申し訳なさなど必要ないよ」
物語にすらなれなかった主人公の方が多く。
描かれた物語にすら登場しない人物の方が多く。
だからこそ、書き留めなけらばらない。
せめてもの、虚構で生きる人々の人生を。
「絵を描いている時にだけ吸える息がある」
唐突に、彼女は斯の有名なフィンセント・ファン・ゴッホの言葉を語った。
「私が思うに、人は、自分の人生の主人公になれはしない」
20歳にして、主人格の消失。
30歳にして、記憶の消滅。
40歳にして、国の最高峰の研究機関の副所長に就任。
主人格と記憶を失う運命を与えられた彼女は、自分の人生を自分のものと認識できたのだろうか。
「だからせめて、私は勘違えたいんだよ」
彼女の体から流れ出る血がエンドロールを綴り始めている。
「ゴッホと同じだよ。人は、自分の感情を芸術で、論理で、文学で表現した時に」
「自分が自分の人生の主人公だと、勘違えることができる」
あぁそうか君が言いたいことは。いやでもそれは。
すでに完成されたハッピーエンドのエンドロールを上書きするような。
大衆が満足した物語自体をあとがきで黒塗りするような。
まるで理想の装丁が破綻し、未曾有の想定に加担したような、罪深き自己主張。
「だから最期に。私の感情で、物語を綴ってくれないか」
......腹をくくれ。
綴られるは、登場人物全員が消え、主人公ですら蔑ろにされる物語。
彼女の命と共に、終わらせていこう。
理想の装丁が破綻し、未曾有の想定に加担。
いつみても良い韻の踏み方です。
ぶひっ!




