セオドリックの伝説と青い炎
— 「うわぁ…なんで今まで知らなかったんだ…」
僕はつぶやきながら、古い本のページをめくり続けた。34ページで、指が止まる。
そこにはこう書かれていた。
「この王国の名はエルドリア。魔法において世界三大強国のひとつである。」
— エルドリア…
その名を胸の中で繰り返すと、不思議な高揚感が込み上げてきた。
「エルドリアには12人の王がいる。現在の12代目の王はセオドリック・アルカナム。
彼は無数の魔法を操り、死者を召喚する達人として知られている。」
その一文を読んだ瞬間、背筋がぞくりとした。
「彼は罪にまみれたスラム街に生まれ、家族はいなかった。
13歳で王宮護衛隊に入隊し、史上最年少で選ばれた。
16歳で第4軍団の隊長となった。」
— たった…16歳で…?
僕は本を強く握りしめ、さらに目を走らせた。
「彼が有名になったのは、血で染まった戦いの中での“1対4000”の伝説によってである。
その時、貴族たちを王都へ護送する任務中に、闇の王国の軍勢に奇襲された。
彼の部隊はわずか200人しか残っておらず、瞬く間に虐殺された。
それでも彼は、死を恐れる貴族たちのために、必死に戦い続けた。」
息を呑み、喉が乾くのを感じながら、最後まで読んだ。
「しかし、それが記録されている全てである…。
あの戦いで生き残ったのはセオドリックただ一人。
彼が王都に戻った時、こう呟いたという。
『やれるだけのことはやった。』」
本が膝の上から滑り落ちる。僕は見上げ、胸が高鳴っていた。
その時、下の階からアレックスの声がした。
— 「エキ!もう寝ようぜ!」
僕ははっとして答える。
— 「うん…すぐ行く!」
そっと本を棚に戻し、ゆっくりと図書室を後にした。
だがベッドに潜り込むと、どうしても気になってアレックスに聞いた。
— 「なあ…この王国の最初の王って誰なんだ?」
アレックスは目を閉じたまま、口元で微笑んで呟いた。
— 「アーサー。」
その夜、僕とジャック、アレックスは寝室で遅くまでふざけ合った。
目が覚めた時には、もう朝9時になっていた。
横を見ると、二人はまだ布団をかぶって寝ている。
僕はそっと笑い、静かにジャックの邸宅を出た。
外に出ると、そこには息を呑むほど広い庭が広がっていた。
色とりどりの花が地平線まで咲き誇り、甘い香りが漂う。
深呼吸していると…
庭の奥に人影が現れた。
それは白いワンピースに長い髪の少女だった。
彼女はリンゴを摘んでいたが、僕の視線に気づくと…
— 「あっ…」
…驚いたように、すぐさま背を向けて走り去った。
僕はただ立ち尽くし、声も出なかった。
— 「…綺麗だな…」
そう心の中でつぶやいた。
その日の昼、僕とアレックスは孤児院に戻り、翌日の準備をした。
夜になると、僕の元に一通の手紙が届いた。
合格通知だった。
紙を握りしめ、込み上げる喜びを感じる。
— ようやく…僕の番だ…
翌朝、赤い髪と赤い目をした男が僕を迎えに来た。
彼は僕を、火属性最強のクラス—A1へと案内した。
扉の前で彼は薄く笑う。
— 「入れ。俺はマックス、お前の担任だ。」
僕は一歩踏み出した。
マックスが僕を紹介し、席を示した。
しかし、座った瞬間、僕は思わず絶句する。
— 「なんだこれ…?クラスに40人もいるのに…35人が女の子…だと…?」
机に突っ伏し、呻いた。
— 「あり得ない…なんで女の子まで…火を使えるんだ…?」
その時、僕の視線がふと壇上に向く。
そこに立っていたのは、昨日庭で見たあの少女だった。
彼女…はクラス委員長だった。
僕は震える声で、隣の席の男子に聞いた。
— 「彼女…クラス委員長なのか?」
彼は小さく頷き、囁いた。
— 「彼女は天才だよ。唯一無二の青い炎を生み出せる人だ。」
ごくりと唾を飲み込む。
彼女の冷たく、しかし誇り高い眼差しが僕を射抜く。
— 火とは…力だけじゃない。
それは誇りだ。