盟友 ⑩
「キミは、魔素を認識するところから、始める必要がありそうだね」
「そうなのか?」
体内の魔素保有量は術式にも身体の強さにも関係するものなんだけど、あんまり興味は無さそうだね。
「魔素の保有量が少ない獣人族でも、子供のうちに、自然と感じ取れるようになるもの、なんだけどね」
「・・・そう」
子供にでも出来るものだと言われて傷付いたのか、複雑そうな顔をする。
確か、チキュウ世界は魔素が存在しないのだったよね。
それでも、がんばって覚えてもらうしかないね。
「魔法道具を使うなら、起動刻印に魔素を流すぐらいは出来ないと動かせないからね。魔素や術式の制御はケイナのほうが上手いから教わるといいよ」
「へいへい。一応、魔石を交換できるように、改造しておいて貰って良いか?」
「後で弄っておくよ」
魔法道具を間に挟んで、互いに肩を竦め合った。
僕のほうの課題は、デンパに代わるもの、か・・・。
壁を通り抜ける、と言われて、すぐに連想するのは死霊系の魔物だよね。
物質的束縛から逃れた死霊系の魔物には空間的な制約が無い、と、言われている。
光術式と闇術式は属性が正反対なだけで、本質は同じものだから、空間系術式は光と闇の、どちらでも構築はできる。
どちらでも同じだと考えていたんだけど、死霊系の魔石を核に闇術式で構築したほうが、適しているだろうか。
「死霊系?」
「うん。闇属性の一種で、死霊系の魔物しか持っていない特殊な属性なんだけど、魔石を確保できそうなら欲しいね」
「覚えとくわ」
軽い感じで返事が返ってくる。
忘れないよね?
心配だから、ケイナにも言付けておこう。
そうそう。“スマホ”に入っていた、ヒナちゃん、という彼の娘さんの“シャシン”なるものも見せて貰ったけど、世界から切り取られたような小さな姿絵に描かれていたのは、ケイナと同じ年頃に見える気の優しそうな女の子で、彼が向こうへと帰りたがる気持ちがよく分かった。
彼の娘さんなら、きっと気の良い子なんだろう。
同じ世界に居るならケイナの友人になってやって欲しいけど、叶わない望みなのが残念だ。
ヒナちゃんのことを話す彼の目は、とても柔らかくて、彼女をとても大切にしていることが感じられた。
彼がヒナちゃんの元へと帰れるように、僕も全力で頑張らないとね。
「キミから貰った魔石を母屋で見たけど、あの大きさの魔石だと取り出せる魔素の量が大きいから、色んなことが出来るよ」
「そりゃ良かった」
売れば結構な金額になるだろう魔石の数々に何の執着も見せないテツに、僕の方が心配になってしまう。
「数も十分にある、が、あんなに渡してしまって大丈夫なのかい?」
「あんな石で良いなら、いくらでも獲ってくるぞ」
何のことも無いようにテツは言う。
本気で言ってるんだろうね。
実際、テツになら出来てしまうのだろうけど、金銭感覚的に大丈夫なんだろうか?
「魔石は換金できるからね。ヒト族の街へ出たときにキミだって資金は必要だろう?」
「そうかもしれねえが、もっと狩ればいいだけだろう。お前だって初めての道具を一から試行錯誤で作るんだから、手持ちの材料は多いほうが良いに決まってる」
自分に必要な分は別枠で狩ってくるつもりなのか。
魔獣は危険なものだ、なんて彼に言っても無駄だろうね。
魔石を得るには自分の命を危険に晒して勝ち取る必要が有る。
自分の命を平然と賭けのテーブルに載せると言うのだから自信過剰にも思えるけど、彼は勝ち目の無い勝負に挑む男では無いと思う。
彼が僕を信じてくれるのなら、僕も彼を信じるべきだろう。
「もちろん、助かるけどね」
お祖父さまも、彼から魔石を譲り受けるのを遠慮しようとしたそうだけど。
魔獣の肉とキノコと一緒に無理やり受け取らせたらしい。
強引なやり方では有るかも知れないけど、余裕の無い僕らのことを思ってのことなのだから、厚意に甘えさせて貰うべきだ。
僕らは僕らにしか出来ないことで恩を返そうじゃないか。
「じゃあ、“決まり”だな。レイクス」
「これからも、よろしく。テツ」
僕らは、がっちりと握手を交わした。
イイ顔で笑うねえ。
覇気のある笑み、とでも言えば良いのかな。
ただ笑っただけなのに、僕まで困難に立ち向かう勇気を貰った気分になる。
広大な森に棲む魔獣を狩り尽くしそうだよね、彼。
盟友⑩です。
共闘は成った!
このお話で本章は最終話です!
次話より新章、第9章が始まります!
次回、始動!?




