小さな魔法使い ⑥
「そ、そうです!!」
テツさんのほうは・・・!?
窪地の向こう側を見ると、地面を震わせるほどのショージョーの咆哮の合間に、バーン! と大きな音がしています。
ショージョーの悲鳴が上がるたびに、1本、また1本と、大木が倒れていき、空を飛んできたショージョーの死骸や体の一部が、窪地の辺りまで降ってきています。
「うわあ・・・」
何を、どうやったら、あんなに酷いことになるんだろう・・・。
木々の合間に、ひときわ大きなショージョーの姿が見えました。
「あ、あいつ!!」
あいつが、群れのボスです!
郷の大人たちが、何人も、あいつに食われたのです!
わたしも、こんなところで驚いている場合では、ありません!
あのテツさんが、あんな魔獣なんかに負けるとは思えませんが、テツさんのお手伝いをしないと!
来るな、と、言われていましたが、わたしは、テツさんのほうへと駆け出しました。
地面が抉れて丸裸になった窪地を避けて、越えた辺りまで来ると、ボスと殴り合っている? テツさんの姿がよく見えました。
「な、なに、これ?」
テツさんとボスの大きさが大人と赤ん坊ほど違って、感覚が、おかしくなりそうです。
ガツンッ!! ゴツンッ!! と、硬くて重い音が森に響きます。
怒ったボスの大きな拳骨がテツさんを殴りつけていますが、殴られたほうのテツさんは、さして痛そうでもなく、びくともしません。
また小石ですかね?
地面からサッと何かを拾っては、お返しとばかりにボスへと投げつけ、ボスが避けて外れたら、後ろにいた配下のショージョーが体の一部をばらばらに破裂させて、絶命の叫びを上げるのです。
あれって、また小石でしょうね。
どうして小石なのかと思えば、腕の長さが違うので、ボスの腕は届いてもテツさんの腕が届かないのですね。
だから、殴られたお返しに小石を投げ返しているようです。
幸いにも、抉れて掘り返された地面は荒れ果てていて、投げ付ける小石には困らないのでしょう。
していることは、ただの投石ですが、わたしの知っている投石とは何か別のものに思えます。
そ、そうだ。
さっきの”槍”で、ボスの動きを止められれば・・・。
わたしは心の中で精霊に呼び掛けます。
さっきは、力んで魔素の量が多すぎたのかもしれません。
ちゃんと意識して、精霊に渡す魔素の量を抑え気味にすれば、狙いの制御も、もう少し上手くできるはずです。
背丈がぜんぜん違うので、ボスの頭を狙えば、テツさんのお邪魔にはならないのではないでしょうか。
ボスに避けられても、隙が出来ればテツさんも攻撃の機会が生まれるはず。
「”槍”!!」
さっきよりも、ずいぶんと魔素の量を抑えたはずなのに、ゴォッ! と、渦を巻いた風が集まり、鋭い鎗の形をとって、とんでもない勢いで飛んで行きます。
また!?
「あっ! ダメ!」
制御できていない!
わたしの頭から音を立てて血の気が引き、真っ青になりました。
「テツさん! 危ない!!」
ボスの頭を狙ったのに、明らかに狙った場所ではないところへと風の鎗が行きました。
宙を走る鎗の軌道は低く、鎗が向かう先にはテツさんの背中があります。
「~~~~~!!」
テツさんに当たる、と、わたしが目を閉じそうになったとき、テツさんが、ヒョイと体を捻って風の鎗を避けました。
テツさんの背中を外した鎗はボスの右ヒザに当たり、大爆発を起こします。
「グギャオオオオオオオオオオオッ!!」
結局、窪地のときよりも至近距離で爆風に晒されたわたしは目を瞑ってしまったのですが、ゴキッという鈍い音とともに響いた頭を揺さぶられるほどのボスの悲鳴に、何とか目を開けました。
「おっほ! ヤルじゃん、ケイナ!」
楽しそうなテツさんの声が聞こえました。
小さな魔法使い⑥です。
殴り合い!?
次回、決着!




