郷の掟 ⑧
「それでは、貴方様は、“龍の勇者”ということに、なりましょうな」
「アレの? 俺と、あの野郎は敵だぞ?」
「いいえ。間違ってはおりませぬぞ」
ケルレイオスは、首を振った。
「勇者としてチキュウ世界から喚ばれたから、勇者、ではないのです」
「呼ぶ?」
いや。文脈的には「喚ぶ」か?
所有権的な話かと思えば、そうでは無いのか。
なんでも、地球から喚ばれた―――、召喚魔法とやらで拉致された人間は、めちゃくちゃ強くなることが有るらしい。
その実例が、爺さんが500年前に会ったという勇者なのか。
事情が何で有れ、異常な早さで、とんでもなく強くなることが有って、その力を請われた結果として「勇者」と呼ばれる。
「〇〇の勇者」ってのは、関係性というか、「縁」で呼び分けてるっぽいな。
複数の勇者が居たんだから呼び分けが必要なのは当然か。
俺の場合は、黒トカゲのせいで異世界に来た「縁」が有るから、「龍の勇者」なんだと。
納得は行っていないし、勇者かどうかは横に置いておいても、「こっちに来てから強くなったんじゃね?」と訊かれれば、思い当たる節が有りすぎて反論に詰まる。
「思い当たる節が、有るのではありませんかの?」
エスパーかよ!?
ツッコミが的確だな!
表情を読まれたか?
まあ、隠しても無意味だな。
「あー・・・。蛇を食ってたら、妙に強くなった気はするなあ」
「なんと! こちら側へ喚ばれて、すぐに触覚ヘビを倒したですと!?」
こう、触角が生えてる蛇、と、額に指を1本立てて見せたら、ケルレイオスが目を剥いて驚いた。
あのヤロウ。自動翻訳かと思ったら、触角ヘビが正式名称なのかよ!?
単純だな! ネーミングセンスが俺と同レベルで壊滅的だぞ!
「そんなに驚くほどか?」
苦戦したのは、良いとこ第2戦までじゃね?
神妙な顔で、爺さんに首を振られた。
「触角ヘビは非常に獰猛で、危険なのですじゃ」
「ちょっと生臭いけど、慣れると美味いんだけどな」
俺の言い分に爺さんが軽く仰け反った。
もしかして、普通は食わねえモンなのか?
そりゃまあ、日本でもゲテモノの類いだけどよ。
「あの魔獣を討伐するには熟練の狩人が5人掛かりで挑まねばならず、あれが棲む森では野営すらできないのですぞ」
「火を焚いたら頭の上から降ってくるもんなあ」
会話が噛み合っているようで、噛み合っていない気がする。
ピュリケイナちゃんよ。
ずっと、ポカーンとお口が開いてるぞ。
黒トカゲ戦から、ピュリケイナとともに郷に着くまで、俺が何を|して(食って)いたかを、ケルレイオスたちに話して聞かせる。
「森オオカミから孫たちを救って戴いただけでなく、塩採取場所の塩水ザリガニまで、駆除して戴いたとは。彼奴にも、何人もの郷の者が食われておったのです」
塩水ザリガニ・・・。
そっちもか! そのまんまのネーミングだな!
自動翻訳魔法の、せいなのかも。
俺の言語認識を元に自動翻訳されるのだとしたら、ネーミングセンスが壊滅してるのは、やっぱり俺か。
郷の掟⑧です。
ピタァッ!(図星
次回、連打!?




