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オジサン、迷子になる ③

本作は「蒼焔の魔女 ~ 幼女強い(Nコード:N6868JY)」の原点となったシリーズ作品です!


【2025/6/9付】

作品情報の「あらすじ」において、いくつかの情報を投下しております。

気になる方はご確認ください。

 役所の担当部署“係”も、予算が厳しいと愚痴りながらも”随意契約”を県に推してくれたので、施工を請けたときに納入するシステムのグレードを少し上げてサービスしてあげたら、すごく喜んでくれたものだ。

 あの件では、愛娘が通う学校の安全に関わる問題なんだからって、マジで俺も頑張った。


 “係”の人ってのは、権限は無いのに責任だけは取らされる、世知辛い立場の人だな。

 小さい自治体だと、管轄する部署も、人的・予算的に専門部署を置く余裕が無いから、一つひとつの案件を独自に決定する権限が無くて、上位部署に“お伺い”を立てる必要が有ったりするんだよ。


 「随意契約」ってのは、正規の行政手続きを踏んでいたら割に合わないとか、“特別な事情”がある場合なんかに、入札しないで指定業者の見積書で決めちゃいましょうって方法で、気心が知れた現場同士で円滑に物事を進められる代わりに、行き過ぎると「官民癒着だ」なんて揚げ足を取られて吊し上げられる諸刃の剣だ。


 ”お(かみ)”ってのは、万人に対応しなきゃならない立場だから、「さっさと対策しろ」って押し掛ける連中も居れば、「気に入らねえ」って押し掛ける連中も居る。

 その時どきの世論の風向きで、どっちからも責められるから、競争相手もない田舎の自治体の工事契約なんかでは、よくあるんだよなあ。


 質の悪い病気が流行っても、地球の反対側で戦争が起きても、ダイレクトに景気の波に翻弄される民間中小企業は生き残るのが大変だが、公務員も大変なのだろう。

 粗探しする連中から執拗に叩かれまくって追い詰められると、責任の押し付け合いの末に、”係”の人に自殺者まで出し兼ねないからな。


 あの手の粗探しが好きな連中って、公務員に身内を殺されたとか、恨みでもあるのかねえ?

 “悪さ”をする奴を容認しろという気は無いが、そこに需要と供給が有って、「そうでもしなきゃ回らねえ」って状況は、どこにでも有るもんだ。


 くだらねえ(しがらみ)を飲み込んででも円滑に回す“必要悪”ってもんを、俺は否定しない。

 実際、俺らは、その「必要悪」の役目を果たしたことも有ったからな。

 世間を生きていれば、杓子定規な“正しさ”だけが正義じゃねえって分かりそうなもんだがなあ。

 そうやって世間様の荒波を張り倒してきた俺には、「んなもん、どうでも良いんじゃね?」と思えて仕方がない。


 まあ、そんな小汚い“大人の事情”なんてもんは、真っ(さら)で“汚れ”を知らない子供たちにゃあ関係のない世界の話だ。

 もう陽が暮れそうな時間だが、まだ校庭でサッカーボールを蹴っ飛ばしている男の子たちの姿が、いくつかある。

 今日も平和そうで、何よりだ。


 イジメの話も聞かないし、ここは良い学校だな。

 ただ、この学校の周辺って、軽自動車が通り抜けるのも躊躇するぐらいに道路幅が狭いから、車では迎えに来られないんだよなあ。


 電動自転車で来るお迎えのママさんたちも駐輪スペースが無いので、通行妨害だと近隣住民からの苦情が入って困っているらしくて、PTAの議題に上がっても解決案が出ない、の繰り返しなのだそうだ。

 俺は仕事があるから、PTA会合なんて、一度も出たことがないけどな。


 同じ地域住民の間でも、立場が違えば意見が変わる。

 工事の際にも、資材や工作機器の全部を200メートルぐらい手運びさせたら、うちの連中どころか下請け施工会社からもブーイングを食らって、宥めて丸め込むのに苦労したもんだ。


 内輪でもコレなんだから、四方八方を丸く収めるのは、それだけ難しい。

 ”真摯に説得する”ってのも一つの方法論だけどな。

 “カネで黙らせる”っても手だし、”暴力で黙らせる”のも手だし、”弱味を握って黙らせる”のも手だ。


 無理やりにでも”収める方法”ってのは色々と有るもんだ。

 世間ってのは、綺麗事だけで回るほど簡単なもんじゃねえからな。

 マジで、うちの天使ちゃんに癒やして貰わねえと、やってらんねえわ。


 さて、今日はどこに居るかな?

 門扉を押し開けて、生徒通用門から一望できる校庭や校舎を、ざっと眺めると、校舎の二階の窓から手を振っている小さな人影に気がついた。

 よく見えるように大きく手を振り返すと、人影は小さく跳ねるように窓の向こうへと消えた。


 あそこは、図書室だったかな。

 迎えを待つ間の時間潰しに、宿題でもしていたのだろう。

 ヒナは、よく、こうやって、俺が仕事を終えて迎えに来るまでの時間を課題の消化に充て、家へ帰ってからの時間で家事のお手伝いをしてくれる。


「パパ! おかえりー!」

「おう。ただいまー」

 ピンク色のランドセルを背負って、元気に飛び込んでくる小さな体を受け止め、カナに似て少し色素が薄めの、ふわふわの柔らかい髪を、ぽんぽんと軽く撫でる。


 ヒナの背中からランドセルを取り上げて、俺の肩に掛ける。

 今日のヒナの服装は、薄いイエローの長袖トレーナーに膝丈のデニムスカートに、レモンイエローの運動靴だ。

 ヒナが着ると、どんな服でも可愛くなるなあ。


オジサン、迷子になる③です。


天使ちゃん降臨!!

次回、平穏な日常!

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