南の町 ⑯
「監視台? ―――いいや。防衛用の櫓か」
“櫓”ってのは“矢倉”とも書いて、用途によって呼び名も違うが、基本的には高所から地上を監視するためのもんだ。
“矢倉”と書く場合は、読んで字の通り弓矢の矢を保管して敵を射るために用いられる。
そんなものが通り沿いの屋根に配置されて通路で繋がれている。
この構造の意味するところは、日常的に外敵の脅威に晒されていても、負ける気は1ミリもねえってことだな。
城ってのは第1の攻略目標だ。
その城を攻め落とそうと包囲した敵兵の頭上にも、“屋上櫓”の防衛ネットワークが張り巡らされている。
町全体が外も内も丸ごと防衛施設になっていて、町の中まで敵の侵入を許したとしても、地上と屋根の上で防衛戦を継続できるように備えているんだろう。
絶対に敵を殺し尽くすという固い意志が感じ取れる。
よく考えたものだとは思うが、いくら何でも殺意が高すぎんだろ。
建物の連なりが途切れて農地らしき広大な土地が広がったところで、ルナリアの嬢ちゃんが声を上げる。
嬢ちゃんが指した先に見えるのは、満々と水を湛えた貯水池っぽいナニカだ。
「あっ! ほら、あれがフィオレ池よ!」
「なるほどなぁ」
地理上の名称には、作ったヤツの名前が付けられることは多い。
あの規模の池なら名前を付けられても不思議はねえな。
歪な形に見えるが、池から溢れ出た水が用水路らしき水路を流れていて周囲一帯が畑なんだから、農業用水として利用されてるんだろう。
首を傾げてジーッと池を眺めていたケイナが、池と同じ名前を持つ友人へと振り返る。
「面白い形をしていますね?」
「・・・ああ、うん」
嬢ちゃんは嫌がってるっぽいが、有効活用されているなら池に名前がないと不便だろうよ。
「アレって、どうやって出来たんだ?」
「こう、ドカーンッと魔力の手で叩いたのよ!」
手段を訊いてみれば、フィオレの嬢ちゃんは目を逸らして、ルナリアの嬢ちゃんが身振りを添えて堪えてくれた。
オーバースローの振り下ろしだな。
ハエ叩きみてえな動きだが、陸上生物としては一番自然な動きでも有る。
猫パンチだって犬パンチだって振り下ろしだし、猿の引っ掻き攻撃だって振り下ろしだからな。
「“魔力の手”ねぇ?」
レイクスがいつもビビる魔素的な何かを、フィオレの嬢ちゃんは“魔力の手”と言ってたな。
角度が浅くて見えにくいが、指を広げた手のひらの形に見えなくもねえ。
あれだけハッキリと手の形に痕が残っているんだから、繰り返し何度も叩いたわけじゃあねえんだろう。
深さがどれだけ有るのかは見えねえが、一撃の大きさや打撃力は相当なものだと想像できる。
嬢ちゃんの戦闘力は熊どころじゃねえな。
「アレって、そんなことも出来るんだ・・・」
「・・・難しいことじゃないですよ。防御術式で殴ったと考えれば簡単でしょ?」
嫌そうに言うレイクスに、心外そうに嬢ちゃんが言い返した。
「防御術式は動かないよね?」
「・・・動きますよ? 動かないものだと考えるのは、ただの思い込みです」
「思い込み・・・」
ポンポンと言い返されて、レイクスが衝撃を受けた顔をする。
「・・・例えば、私がレイクスさんの思いもよらない魔法を使ったとしましょう。それは、そういうものなんです。目の前に存在しているのだから、そういうものだと逆に思い込めば良いんですよ」
「うーん・・・。随分と乱暴な論理だと思うけど、理には適ってるのかな? 僕らは物心ついたときから周囲の誰かが術式を使っている姿を目にしているからねぇ」
この嬢ちゃん、かなりの脳筋理論だな。
魔法道具オタクが追い込まれてやがる。
俺に魔法は分かんねえが、本当にその理屈は通ってるのか?
レイクスが揺らいだと見てか嬢ちゃんが畳み掛ける。
「・・・そうそう。赤ん坊は言葉を覚えるときにどうしますか? 家族の話し声を聞いて、話している姿を見て覚えるんですよ。論理は必要無いとまでは言いませんけど、最初は“そういうものだ”と理屈抜きで受け止めた方が早く覚えると思います」
「言われてみれば、確かにその通りだね」
レイクスだけじゃなく俺まで頷いちまった。
今の論法は説得力が有る。
日本人の多くが苦手とする英語だって、教室に通って習うよりも現地へ数ヶ月間放り込まれて覚える方が早えっていうもんな。
「・・・発想の転換ですよ。どこに焦点を絞って物事を見るかの違いだけで、物を見る角度が変わったから見え方が変わっただけです」
「角度の違い。見え方が変わっただけ・・・、か。なるほどなぁ」
とうとう脳筋理論に論破されやがった。
それで良いのか? 137歳? 138歳だっけか?
南の町⑯です。
論破――ッ!?
次回、謀!?
※こっちも遅刻です!




