プロローグ・ しつこい雑草は根っこから枯らせば良いのでは? と考えた ③
本作は「蒼焔の魔女 ~ 幼女強い(Nコード:N6868JY)」の原点となったシリーズ作品です!
同じ世界観と設定を共有しております!
遠い目になる。
また、そんな勇者が召喚されてくる日が近いのか・・・。
我は、何者にも脅かされず、静かに暮らしたいだけなのに、トチ狂ったヒト族どもは、己が棲息圏から、わざわざ遠く離れた我が塒まで、数多の魔獣が跋扈する深き森を踏み越えて、やってくる。
今の勇者でも来られるものかは分からんが、我の塒を荒らしに来る可能性は有る。
人間種は短命で、どれだけ死んでも、すぐに増える。
春先の虫のように、ワサワサと増える。
根絶やしにするつもりで焼け野原にしても、また雑草のごとく生えてくる。
そう。雑草だ。
踏んでも、引っこ抜いても、焼いても、懲りずに生えてくる。
我も昔は、いちいち怒ってヒト族の集落を焼きに行ったりしていた頃があるが、キリが無いので面倒になって止めた。
どれだけの恐怖を与えて報復しても、奴らは、すぐに忘れるのだ。
前の奴らとは民族が違うとか、国が違うとか、世代が変わったとか、綺麗に忘れて「知らない」らしい。
さらには、我に関わりのない「魔族と戦わせる」などという理由で“チキュウ”から勇者を喚んでは、腕試しや前哨戦と称して、我の塒で暴れに来るのだ。
そうだ。“魔族”種といえば、彼奴らも大概よな。
彼奴らは、我や我の同族や眷属どもを食らえば強くなれる、と、定期的に攻め込んでくる。
同胞の中でも最強と呼ばれて久しい我を、眷属である飛龍どもと同じにしおってからに。
棲息圏を巡って敵対する人間種との偶発的衝突の危険を冒し、草木も生えぬ不毛の砂漠地帯を軍列で突っ切ってまで、だ。
元々、過酷な棲息環境に順応して強靭な魔族種ではあるが、もっと強くならねば、と考えるのも分からんではない。
強くならねば、一方的で身勝手な“正義”を振り翳す勇者などという〇チガイを送り込まれて、ぶっ殺されるのだからな。
しかし、だ。
何のために、我が、魔族の棲息圏からもヒトの棲息圏からも遠く離れた、この山脈地帯を棲家に選んだと思うておる?
お前らなんぞに食われて堪るか!
勇者―――、か。
本当に、厄介よなあ・・・。
チラリと洞穴の高い天井を見上げて、勇者どもが喚ばれる前に棲んでいた“チキュウ”という世界に思いを馳せる。
現世に触れられぬ、こちら側の世界と重なるようにして空間の壁に隔てられた別の世界。
空想や概念ではなく、その世界は確かに存在する。
もっと言えば“チキュウ”以外の世界も“壁”の向こう側に存在するのだが、“チキュウ”から来た連中は、なぜか、非常に、こちら側の世界への順応性というか親和性が高い。
それはもう、反吐が出そうになるぐらいに高い。
必要十分な知性を持つ上に、ヒト族と見分けが付かんほどに似ているから受け入れられやすい。
人間種自体が順応力の高い種族だが、あらゆる環境に”慣れる”ヒト族の順応力と来たら、群を抜いている。
ヒト族が勇者の召喚を諦めぬ限り、未来永劫、我は脅かされ続けるのだ。
「・・・・・・・・・」
うんざりする。
どこかの国宝とかいう宝剣を振り回し、奇声を上げて踊り掛かってくる精神破綻者のギラついた目を、首を振って頭の中から追い払う。
そういえば、数百年ほど前に、どこやらの“魔王”を名乗る頭の中まで筋肉が詰まったキ〇ガイが、「どうせ勇者が来るなら、強くなる前に滅ぼせばいい」と言い出して、“チキュウ”へ攻め込もうとしたと聞いたな。
あのキチ〇イは軍勢を送り込むどころか、“穴”の術式が完成する前に、勇者に攻め込まれて魔王の方が滅んだのだったか。
しかし・・・、一理あるな。
我は、のっそりと身を起こす。
”穴”とは、自由に“壁”を超えるために空間を穿つ術式だろう?
魔王に出来て、我に出来ぬ道理は無いな。
しつこい雑草は、根っこから枯らすしかないのだろう。
仮令、一時の平穏しか得られなかったとしても、やる意味はある。
我はただ、静かに暮らしたいのだ!
樽のように見えて引き締まった流線型の巨躯。
鋭い鉤爪を備えた強靱な四肢が、大地を踏みしめる。
全身を覆う、甲冑を思わせる黒鱗。
滑らかな皮膜が張った、蝙蝠のそれを思わせる大翼を広げる。
蛇のように長い首を、もたげる。
側面に数十もの棘が並んだ長い尾で、ズンッ、と、一つ、地を打つ。
鰐を思わせる頑丈な顎から、綺麗に並んだ鋭い牙が覗く。
頭頂部から尾の先まで、背筋には剣のように突き立った背鱗が一直線に並ぶ。
天に挑むかの如く、後頭部から伸びた4本の角。
その巨大な体躯の全長は50メテルほどもあろうか。
闇夜に浮かぶ満月にも似た、金色の眼。
深い知性を湛えた双眸が、強い意志の光を帯びる。
人界と魔界を隔てる山脈地帯の、獰猛な生態系に君臨する“門番”―――。
数千年もの永きに亘って恐れられ続ける龍種族の頂点―――、黒龍王。
「グオオオオオオオオ!!」
強大な漆黒の龍は、ビリビリと大気を震わせ、落雷と紛うばかりの咆哮を上げる。
台風のごとく、激しく体内に渦巻き、高熱を伴うほど濃密に練り上げられる魔素。
尋常では無い異変を感じ取ったのか、山裾の鬱蒼とした森から、ごつごつとした巨岩が剥き出しの山肌から、眷属であるワイバーを始めとした飛行種の魔獣たちが一斉に飛び立ち、地を這う獣種の魔獣たちが恐慌を来して逃げ惑う。
“王”たる黒龍は、世界を隔てる“壁”に“道”を穿つべく、空間接続術式を構築し始めた。
プロローグ③です。
黒龍王、大地に立つ!
次回、主人公、現る!?
前章はこのお話で最終話です!
次章、本編第1章が始まります!