クラン ㊻
「フィオレ! ルナリア!」
「「お母様!」」
張りの有る女声が森に響いて、女児たちと同じ意匠の軍服に身を包んだ女が派手な金髪を靡かせて駆けてくる。
母親ねぇ・・・。
女児たちと一緒に居る俺たちの姿に気付いたのか、危険物センサーが反応した。
あっ。こりゃヤベエな。
肌の表面にピリピリと危険な気配を感じる。
どう見ても外国人の俺とターバン頭の一団だ。
見るからに怪しい連中が幼い娘たちと一緒に居るのを見付ければ、俺だって警戒する。
いきなり敵意を向けられちゃあ戦闘にも繋がり兼ねねえな。
女児たちは母親に気を取られてるし、刺激しないように撤退するか。
チラッとレイクスたちとアイコンタクトを交わして、そっと背中を向ける。
あ。しまった。
隠形術とか言う隠遁技能を持っていねえ俺のお足元でカサリと落ち葉を踏む音がした。
足元を見下ろした俺の背中に甲高い女児の声が掛けられる。
「・・・何もしないから逃げなくて良いよ! むしろ、逃げちゃうとややこしいことになるから!」
「「えっ?」」
足を止めたレイクスと俺は女児たちを返り見ちまった。
ややこしくなる?
この嬢ちゃんは俺たちが逃げを決め込むことで何が起こるかを予測できてるってことか。
チッ。こいつは判断に困っちまうな。
子供らしく分かってねえ感じなら誤魔化しも利きそうなもんだが、次の状況を予測できるほど知恵が回るとなれば危険度が跳ね上がる。
逃げるか、戦うか。
あのヤバそうな母親が駆けつける前に判断しなきゃならねえ。
俺が覚悟をキメて行動に移す前に銀髪頭が追撃してきた。
「・・・正体不明の怪しい人たちがウロついてるってなれば、立場上、私たちは調べる必要が出て来ちゃうんだよ。それなら身元を明らかにしてくれた方が手の打ちようが有るから」
何とかするから逃げるな、と?
銀髪頭の言い分にレイクスと俺の頭が傾ぐ。
「立場上・・・?」
「手の打ちよう・・・ねぇ」
お前ら、どう見ても5~6歳だろ。
なのに、明確な理由と提示された次善策には妙な説得力が有りやがる。
母親と同じ意匠の軍服―――、どこぞで見覚えが有る軍隊をイメージさせる衣服を身に付けているところから察するに、何らかの武装集団に所属していることは想像が付く。
特徴的だが論理性を感じさせる言葉から、文化的な話し合いが可能で有ろう相手だと思わせられる。
この手のヤツを舐めて掛かると痛い目に遭わされ兼ねねえな。
しゃーねえ。これもまたギャンブルになるが、この嬢ちゃんに賭けてみるか。
意外なほどの速さで駆けてきた母親らしき女が落ち葉を蹴散らして急ブレーキを掛け、スーッと音も無く着陸した女児たちを滑り込んで抱きしめる。
「無事だったか!」
「・・・うん」
「やっつけたわ!」
ああ。こりゃあ普通に母娘っぽいな。
母親が引き連れて来た数人の甲冑騎士―――、こっちも全員が女だな。
女性騎士たちは俺たちに警戒の目を向けて、いつでも剣を抜ける体勢を取ってやがる。
銀髪頭と金髪頭にテンションの違いは有るが、2人とも大人しく母親に抱きしめられている。
この母親の言動は母親として自然なものだろう。
ただ、よく分かんねえのは、そこまで心配していたくせに、女児たちが魔獣と戦っていることを母親は承知していたらしいってチグハグな様子だ。
魔獣ってのは触角ヘビや犬っコロでも危険なもんだからな。
娘たちの存在を確かめて安心したらしい母親が俺たちに厳しい目を向けてくる。
あー・・・。こりゃあ良くねえな。
エレえ金髪美人だが、チクチクと肌に突き刺さるような警戒心が全面的に向けられたことで、センサーが拾っている危険度が大きく増大する。
ガシャガシャと金属音を響かせて増援が接近してきているし、ここまで来れば逃げるわけにも行かねえ。
熊よりも危険度の高え女だが、仕方ねえな。
最悪の場合は、迎え撃つ。
殺るか殺られるかだ。
「よくやった。―――それで、この者たちは?」
「イエーティの討伐を手伝ってくれたんだけど―――」
銀髪頭が母親を宥めに掛かったところへ、聞き覚えの有る大声が割り込んできた。
「テツ!」
名前を呼ばれて声の主へ視線を向ければ、増援に来たのも甲冑騎士の一団だ。
こっちは男ばかりだが、その中に見知った顔が有る。
「ギルド長?」
「よう。こんなところで会うとは奇遇だな」
ケイナが目を丸くして、“所用”で王都を離れていたドネルクの声に、母親と女性騎士たちが高めていた敵意が一気に萎む。
無視して構わねえ程度にまで弱まった危険物センサーの反応に、内心、安堵の息を吐きながら、ドネルクに片手を挙げて返事を返す。
息を弾ませているドネルクに母親が視線を向けた。
クラン㊻です。
衝突回避!?
次回、意趣返し!?
※ ちょっとだけ遅刻です!




