クラン ③
片道4日の道程を何度も来たくないから、合計4台の馬車は残った獣人族とドワーフ族父娘に世話を任せて俺とケイナは猪熊狩りに突入することにした。
日本全国の猪熊さんには申しわけねえが、今回の討伐対象はデケえ熊とイノシシらしいからな。
“魔の森”の外でキャンプを張るだけで顔色を悪くするような連中でも留守番ぐれえは出来るだろ。
馬車チームの面々が不安を訴えたが、俺とケイナが突入地点から魔獣を狩り尽くしながら侵攻するんだから俺たちが通った跡ほど安全な場所は無い、と説得して残してきた。
帰郷希望者? クローゼリス領の領都ってそこそこデケえ街で乗合馬車に乗せて送り返したぞ。
グライアレー領に向かう直行便がなくて乗り換えが必要だってんで、奴隷商人どもの売却益の一部を持たせてやってリリースした。
グライアレー領ってのは領主が領地経営にあんまり熱心じゃないらしくて、治安が良くないらしいんだが、同じ領地の出身者同士だし助け合って地元へ帰るだろう。
つーか、俺たちには自分の仕事も有るんだから、勝手に帰れ。
解放時以降、俺たちの食料を振る舞ったこともあるし、奴隷商人たちが持っていた食料が思ったよりも少なかったせいで時間に制限が有る。
猪熊狩りはスパルタ短縮スケジュールだな。
スパルタ対象者は猪熊だ。
猪熊は、この周辺地帯の食物連鎖の頂点としての矜持があるのか、攻撃して、ちょっかいを掛けると、逃げずに向かって来てくれるので、とても効率的に乱獲が進む。
ヤベぇ。美味しいぞ、猪熊!!
危険物センサーに引っ掛かる獲物を、片っ端からケイナに位置を伝えて釣ってもらう。
ドンドコドンドコと地を蹴る重たい音が近付いてきて、足の裏に地面の震動を感じ取る。
「お~。デケエとは聞いていたが、本当にデケエよな」
乗用車どころかロングサイズのワンボックスカーぐれえの体格だぞ。
背中の筋肉が大きく盛り上がっていて丸々と太っているように見える。
狂気すら感じさせる敵意に満ちた目が俺を睨み据えていて、万が一に備えてケイナの姿を俺の背中に隠す。
ここを通りたかったら俺の屍を踏み越えていけ! とまでは言わねえが、ここは一歩たりとも通さねえ。
適当に殴ると解体作業場のジジイに叱られるだろうから、殴る場所に気を配らなきゃなんねえんだよな。
頑丈な牙を使ったアッパーカットみてえな突き上げ攻撃が得意なイノシシは、頭を下げて真っ直ぐに突進してくる。
「フンっ!!」
俺の目線ぐらいに来る脳天を、渾身のストレートパンチで真っ直ぐに打ち抜く。
パカーン!! と良い音で頭蓋をカチ割られたイノシシの巨体が、自動車メーカーの衝突実験のような急停止で崩れ落ちる。
気持ち良いぐらいのクリーンヒットだ。
「うおおっ! さすがにグロい!」
頭蓋骨の真ん中が大きく陥没して割れたもんだから、圧迫されて内側から押し出された両目の眼球がブランと飛び出して、頭が割れた裂け目から脳ミソっぽいピンク色の何かが漏れ出してやがる。
脳ってのは多くの血液が流れてるから、噴水みてえに鮮血も噴き出してる。
汚え、とは言わねえが単純に絵面がグロテスクなんだよ。
これも弱肉強食だ。悪く思うな。
俺も悪いと思わねえから。
「トドメを刺す必要も有りませんね」
「そだなー」
弱肉強食の中で生きてきただけあって、グロいぐらいじゃケイナも揺るがねえ。
そそくさとマグカップを2つ取り出して滴る鮮血を受け止め始める。
このマグカップは衣服と一緒に王都で買い直したものだ。
木製カップは血の臭いが染みついちまって臭くなっちまったからな。
その点、金属製は臭いが付かねえ。
カップ自体がちょっと重いのは難点だが、ケイナも意外と腕力が強いから大した負担にはならねえんだよ。
ケイナが手渡してきたカップの中身を一息で煽る。
「おおう」
「うわ」
久しく感じなかった臓腑の熱に、俺もケイナも思わず声が出る。
「このベヒモス、まあまあ強かったんですね」
「まあ、ベヒモスだしな」
ベヒモスと言えば地球的には伝説の怪物だったはずだ。
人類最古のファンタジー小説とも言える旧約聖書だったか何だったかに出てくるんじゃなかったか?
宗教に熱心なガイジンと違って日本人の認識なんてそんなもんだ。
実際、俺の認識もゲームキャラクターか何かの説明書きで知った知識が元だしな。
どんな経緯でこのイノシシ―――、イノシシだよな?
コイツ、毛皮じゃなくゴツゴツと固い剥き出しの皮膚に全身が覆われてるんだが。
犀のように鎧みてえな皮膚を身に纏ってるくせに形状はイノシシなんだよなあ。
たぶん、聖書を信じる宗教の誰かがコイツを見たから、「ベヒモス」って名前を付けられたんだろう。
必要な素材は皮と肉と魔石だけで、基本的に骨や内臓は要らねえ。
血抜きをしたら、全身の皮を剥いで内臓を抜き、肘と膝から先の四肢はポキッと折り取って棄てちまう。
頭と背骨も要らねえから内臓と一緒に棄てちまう。
バラ肉―――、肋の肉は骨を外さずに1枚に連なったままお持ち帰りだ。
内臓で残しておくのは肝臓と心臓ぐらいだな。
肝臓は薬膳というか薬として効能が信じられて居ることから一応の需要は有るらしくて納品するが、心臓は俺たちの食料だ。
心臓ってのは筋肉の塊で、軽く塩を振って焼くだけでコリコリとした歯応えが有って美味えんだよ。
そうやって不要な部分を廃棄するとデケエ魔獣も体積は半分以下になる。
熊の場合は、生真面目というか必ず最初に立ち上がって威嚇して来やがるから、初手で膝にヤクザキックをブチ込んで転がしてから脳天をカチ割ってトドメを刺す。
2足で立ち上がったときの身長が4メートル有ろうが5メートル有ろうが、膝関節を逆向きに蹴り折られれば背丈は低くなる。
この熊、毛足が20センチメートルも有って、細かく波打った毛が針金みてえに硬いもんだから剣で斬り付けても斬れねえらしい。
そのせいで付いた名前が“鋼毛熊”。
槍や矢は真っ直ぐに入れば貫けるらしいんだけどな。
まあ、拳で撲殺する俺には毛皮がどうだろうが関係ねえ。
貫かなくても思い切り殴れば中身は潰れる。
毛皮の損傷箇所が割れた頭蓋と胸の切開痕だけだから、ジジイからもクレームは来ないだろう。
クラン③です。
絶賛、乱獲中!
次回、帰還!?




