クラン ①
檻―――、箱形の荷馬車に入れられていたのは、獣人族の男女が5人と、ヒト族の若い娘が2人と、ドワーフ族の父娘が2人。
合計9人だった。
全員が戒めから解放されたかを確かめ、街道脇の擦れ違い待避スペースに馬車を停めて、俺たちの遠征用食料を振る舞っている。
小太りの奴隷商人を締め上げて、指の関節をポキポキと可動方向とは逆側にも動くようにしてやったら、素直に話してくれるようになったんだよ。
そんなわけで、箱形の荷馬車に詰め込まれていた連中が不法に拉致されてきた違法奴隷ばかりだったことは確認が取れた。
「それでアンタらは、これからどうしたい?」
俺の問い掛けに解放された連中が顔を見合わせる。
ヒト族の娘2人と獣人族の娘2人が手を挙げて、地元の村へ帰りたいと希望を述べた。
この4人は郷里からまだそんなに離れていないらしい。
「ワシらは・・・」
娘の肩を抱くドワーフ族のヒゲ親父は、西方の小国から逃げてきたらしい。
人間扱いされない迫害に耐えながらも小さな鍛冶工房を営んでいたが、街の小役人に娘が目を付けられて攫われそうになったので、母国に見切りを付けて父娘ともども逃げてきたと。
娘の方はケイナと同じぐらいの背丈だから子供だと思っていたら、もう15歳で成人しているらしい。
獣人族の数人も似たり寄ったりな身の上らしい。
神教会関係国からの圧力に負けて母国が亜人種排斥に舵を切って母国に居られなくなったと。
そのまま母国に留まれば、いつ捕まって神教会に売り飛ばされるか分からねえ。
かと言って、戸籍が有ろうが無かろうが国外へ流出すると母国では犯罪者扱いになる。
「流出」ってのは密出国―――、脱出だな。
命懸けで国境を越えたところを奴隷商人の一団に襲われて、檻の中へ閉じ込められたんだと。
この国に奴隷制はないと信じて国境を越えたのに、奴隷商人に囚われて内戦の間はどこだか分からない建物の地下に閉じ込められていたらしい。
領地間の境目である関所では陰で武器を突き付けられて、言葉を発することを禁じられたんだと。
ヒゲ親父に至っては、子供にしか見えねえ娘に刃物を突き付けられて人質に取られちゃあ逆らえなかっただろうよ。
故郷の国へ戻っても犯罪奴隷に落とされるし、もう進退窮まって諦めるしかないと思ったと。
膂力が強いドワーフ族の父娘は、父親が娘を逃がそうと激しく抵抗したために娘ともども殴る蹴るの暴行を受けた上、奴隷用の魔法道具を首に嵌められたらしい。
”未開”と言えば一言で終わっちまうんだが、半ば力が全ての世界だから、力のねえ者にとっては地獄だろうよ。
ムカムカする。
娘を攫われそうになった、という部分にシンパシーを感じていることは否定しねえ。
だが、娘を愛する父親にとって、娘の敵は不倶戴天の敵だ。
絶許だ。万死に値する。
「テツさん?」
「お? おう」
「目が据わってます」
どう、どう、とケイナにいなされたので深呼吸して気持ちを落ち着ける。
なんか、だんだん俺の扱いが上手くなってね?
「じゃあ、俺んトコへ来るか?」
「そうしたほうが、良いかもしれませんね」
ケイナも同意してくれたので、詳しい話を省いて帰るアテが無い連中に俺が保護する旨だけを伝えた。
郷里へ帰りたがっている連中も居るから、そいつらが家へ帰れるように手配してやる必要も有るんだが、そいつらは部外者になる。
どこで喋るか分からねえヤツに俺たちの秘密は聞かせられねえし、サッサと帰らせるに限る。
今のところケイナの耳を見たのはドワーフ父娘だけだ。
この父娘は祖国に帰れねえし、ヒト族に強い不信感を持ってるしで、俺たちが保護してやらねえとまともに生きて行けねえだろう。
官憲の事情聴取が有った場合には協力することを全員に約束させ、ケイナがエルフ族だという情報だけはヒゲ父娘に口止めして、「情報が漏れることが有ったら怖い魔獣屠殺職人がお前を狩りに行く」とだけ脅しを掛けておいた。
「地獄の底まで逃げても殺しに行く」ってのは脅し文句の定番なんだが、本気で青くなってやがったから喋ることはねえだろ。
ちなみに、「魔獣屠殺職人」ってのは俺のことだ。
助けられた恩を忘れてケイナの秘密をバラしたときは、俺の手でシメに行く。
マジで地獄の底まで追い回してケジメを取り立てる。
「討伐依頼もこなさなきゃならねえし、先に帰郷者をリリースしに行くか」
「りりーす」
つい口を突いて出た単語にケイナが首を傾げた。
「あー。帰れるように手配しに行くか」
「はい。そうしましょう」
俺たちの馬車はそのまま俺たち2人で乗るとして、1台の檻馬車に奴隷商人たちをブチ込み、もう1台の檻馬車には幌馬車から移した荷物をブチ込んだ。
被害者たちを幌馬車に乗せて、俺たちの荷馬車に付いてくるように伝える。
こっちの世界の連中は、馬車の操縦が出来るヤツがちょくちょく居るものらしいんだよな。
実際、帰る場所がないと言ってる連中は、ヒゲ親父の娘以外の全員が操縦できた。
奴隷商人たちに没収されていた各自の持ち物は、それぞれに返しておいた。
奴隷商人の護衛の一人が持って居た剣のうちの1本は、奴隷にされていた獣人族の1人の持ち物だったらしい。
どうせ全部売り払うつもりだった武器防具の類いだからな。
二束三文でしか売れねえ中古品の1本が減ったぐらい構わねえし、自分たちの馬車を自分で守れるなら、その方が良い。
普通の馬車商隊なら魔獣や盗賊に備えた護衛が必要らしいんだが、俺たちには危険物センサーとケイナの爆裂魔法が有るからなあ。
護衛なんて不要だわな。
実際、獲物の損傷具合を問わないのなら、ケイナの魔法で直撃した方が狩りも早く片付くんだよ。
ただ、これを口に出すとケイナの機嫌が悪くなる。
機嫌が悪いといっても口を滑らせた俺に怒っているわけじゃなく、自分の不甲斐なさを責め始めるんだよな。
いくら威力が有っても、魔素や術式の制御に自信が有ったケイナとしては納得が行かない結果なんだと。
「さてと。どうすっかなあ」
「何がですか?」
俺のボヤキに、ケイナが律儀に反応する。
「いやあ。馬をな?」
「馬?」
悪党どもの馬車3台は俺が接収するんだが、問題はその処分だろう。
馬車を売るのは問題ねえ。
売ると問題になるのは馬の方だ。
結局、悲しそうな顔をするケイナに負けて、手持ちの馬が7頭に増えることになった。
クラン①です。
馬が7頭!(7頭です
次回、乱獲!?
※前話の次話予告でミスって新章です!
遅刻もしたし、すみません!




